○クェスカイゼス 〜I=Dの原型〜  原型という言葉は無名世界観の謎を知るものにとっては意味のある単語である。 知類,生けるものにとって原型とはすなわちオーマであり,運命の源泉である。 その人を模すI=Dにもまた,その論理は通じるであろう。 I=Dのオーマと言うと恐ろしく世界を壊しそうな存在に聞こえるが,そうではない。 彼は,I=Dの父として,子らを守るために動き出す。ただそれだけなのだ。  その姿を類推するには,I=Dの系譜を見渡せばいい。 帝國と共和国に分かたれたI=Dの系譜の根幹に,その面影は見え隠れしているのだから。 そう,彼らのその多くには犬と猫の名がつけられている。 そこからクェスカイゼスの性能は見出すことができる。  進化論に基づけば犬と猫はかつて同じ生き物であった。名を,ミアキスという。 ミアキスが犬と猫の先祖,すなわち原型であるならば,クェスカイゼスもまたミアキスと似ているのである。 ミアキスのその姿は犬よりも猫に近く,爪を手の内に隠す能力を持ち,樹上で俊敏に生活する生き物である。 樹上で生活するからにはその背丈は大きいものではない。クェスカイゼスもまた大型とはけしていえず,アメショーなどと対して変わらない。  しかし,小さいからといってその能力が劣るわけではなく,その装甲は力学的に細密な構造がとられているために正面決戦では前線に立つことができ, またその丈からは想像もつかぬ出力が敵の死角から死角へと渡り歩く高速戦闘を可能にしている。 ものの性能は大小ではなく,ポテンシャルの高さ,技術力の高さであるということを示す象徴としてもクェスカイゼスはふさわしいといえる。 さて,このクェスカイゼスの能力の機軸といえるのは推進機関である重力制御システムである。 このシステムは宰相府の最高機密の一つとされ閲覧できるものではないが, 通常動力から発生する運動エネルギーを補強する形で稼動させることにより,最終的な出力を大型I=Dクラスにまで高めている。  また,地表より僅かに浮遊して活動する機能も保有しているため,操縦者の任意で地形の悪影響や二足歩行による騒音を抑制することが出来る。 この機能を応用して非常に高度な姿勢制御を行うと地面に伏せるように機体を動かすことができ, これがアメショーの保有する匍匐前進機能の発想元となったと言われている。  しかし,これらの重力制御システムは保有兵装の相性だけでなく非常に管理が難しいものであり, 一操作間違えれば突如としてシステムが暴走,機体がバランスを崩して最悪自壊して消滅しかねないほどピーキーである。 騎士専用として操縦者が制限されているのも致し方ないことであろう。 ○保有兵装  クェスカイゼスの主武装たる剣と楯には,他にない大きな特徴として騎士専用機の関節部分に用いられる磁力球がとりつけられている。 この機構は一般的な人型兵器が武装を装備するときに発生するハンドパーツの負荷を解決,整備性を高めると共に, セキュリティ及びセーフティシステムとして,クェスカイゼス以外の機体へ武装が流用されることを制限している。 (とはいえ1機体1セットの制限がなされているわけではなく,必要であれば二刀流・二楯流といった流動的な運用が可能である) また,この機構は騎士専用機の関節とはやや異なる形で機体と接続されており,手との接続を解除して背面に装備を移動させることが出来るほか, 接続位置を固定して武装を高速回転させることが出来る。 特に後者の特性は剣に刀身を食い込ませて「捻り切る」技を,楯には着弾するものを回転で「受け流す」といった従来にない戦闘技術をクェスカイゼスに与えている。  専用楯は非実体の領域展開型であり,手の甲から腕にかけて装着するジェネレータを慣用的に「楯」と呼んでいる。 もちろん「楯」自身にも機体より厚い装甲が付与されているが,それはジェネレータを守るためである。 このジェネレータは,クェスカイゼスが推進機構として保有する重力制御システムを変化させて出力するデバイスで, 起動した際にはこのジェネレータを焦点として前面に楯となる領域が展開される。 この領域に着弾する物質のベクトルを重力変異によって捻じ曲げ,あるいは減衰させることで防御を行っているのだ。  その一方で専用剣は整備性と耐久性が重視されているために楯のような複雑なシステムで構成されてはいない。 その刀身は斬る・突くのどちらもを行えるよう,程よく広い刀身に両刃の拵えとなっており, その柄はパイロットの好みによって両手でも取り扱えるよう長く取り付けられている。 なお,これらの基本設計はオリジナルの型を踏襲したものであるが, 量産型と違いオリジナルは前ループの遺産であることをしめすかのように剣鈴の形をしているといわれている。 しかし,オリジナルは戦場はおろか整備の場に出されることも少ないため,その姿を見たものは殆どいない。  また,これらの主武装とは別に,クェスカイゼスには内蔵兵器として射撃武器が搭載されているが, その全てはまるで猫が爪を隠すが如く外見からその場所を察することはできない。 また,損害時の誘爆を避けるために内蔵兵器の多くが光学兵器であるということも内蔵兵器の存在を隠すのに一役買っている。 初めて対面するものであれば,この機体は単身でも十分戦闘できるということに気づくことは少ないだろう。 ○セーフティシステム  クェスカイゼスは発掘兵器,すなわちTLOの兵器である。 発掘兵器とは古代文明が所有を放棄した品々であり,それはゆきすぎた技術が世界を破壊するのを防止するためであった。 とはいえ,技術は常に進歩するものだとしても,一つ一つの技術に限界は存在し,またあるいはトリガーを重くする安全装置は兵器に必須である。 それらの機構,言い換えるならクェスカイゼスの弱点を以下に記す。  1.根源力認識システムによって一定未満の根源力保有者のみでの操縦は拒否される  2.出力の限界点として,全武装を同時に最大出力で起動しようとするとシステムダウンする。  3.重力制御システムの欠点として,機体と,磁石球で機体に接続されている専用兵器にのみしか効果を及ぼさない  4.重力制御システムは非常に管理が難しく,僅かな操作ミスで機体がバランスを崩し,最悪自壊して消滅しかねない 以上の欠点がクェスカイゼスの操作を難しくしており,これらのラインをクリアして初めて機体を起動することができる。 また,宰相府側がこれらの弱点の上に心による制限機構をとりつけているとも言われているが,真実を知るものは宰相府の上層部のみである。