『赤ずきん』
<脚本> 南無
<配役>
赤ずきん:ジゴロ
おばあさん:ぷーとら@海法避け藩国
狼:ぷーとら
(敬称略)
むかし、むかし、あるところに、流し目が格好良いと評判のジゴロがおりました。
それは誰だってちょっと見ただけでうっとりしてしまうようなイケメンで、村の女の子はおろか、隣国の女の子ですらこのジゴロを好いていました。特にそのジゴロを愛していたのは遠く海法避け藩国に住むぷーとらという名の乙女でした。
ジゴロが日よけに着用する赤い頭巾は、このぷーとらの手作りだという噂で、似合わないという周囲の評判を無視して堂々と頭巾を着用する彼を、世の人々は赤ずきんと呼んだりもしたのでした。
ある日、ジゴロは、最近ぷーとらを構っていない自分に気がつき、慌てて海法避け藩国へ出かけました。まずこの考え方な時点で最低男ですが、これも彼なりの愛し方のようです。
道中様々な女性に会ってはさりげなく口説き、さりげなくデートし、さりげなくあれやこれやとするうちに、謎の美女が現れることで有名な林道へと差し掛かったのは別に故意ではありませんでした。
色々と寄り道をしたのですっかりご満悦の彼の前に「がおー」といまいち迫力のない声とともに一匹の狼が現れました。といってもその狼、猫耳や猫尻尾はついているものの、見た目はまるで人間の女の子で、更に言えば今から会いに行く予定のぷーとらにそっくりなのです。
「ぷーとらさん?なんでこんな所に」
「ええ?僕は確かにぷーとらですが、あなたとは初対面です」
「そうですか、それにしても可愛いね、僕は更夜というんだけどよかったら一緒に散歩でも」
ジゴロはさらっとナンパモードに移行しました。相性がよかったのでしょう、ぷーとらも日が翳り始める頃にはジゴロにめろめろになってしまいました。一応旅人を獲って食う為に襲いに出てきた狼だったのですが、まあそんなことはどうでも良いです。そもそも猫だし。
さて、とっぷり日も暮れ朝が来て、ようやく本来の目的を思い出した更夜、もといジゴロは、なくなくぷーとらの元を去って行きました。メルアドはゲット済みなので問題ありません。
しかしそれではすまないのが、寂しがりやの狼です。「こーやさぁん…」しょんぼりと一人で呟く狼、連絡を待ってなどいられず、彼の後を追いかけて行きました。が、どこをどう間違えたか追い越してしまったらしく、再会できないまま行き着いたのは海法避け藩国の小さな小屋でした。
丁度お腹も減ってきた頃合で戸を叩いてみると中から美味しそうな乙女が出てきました。
「更夜さん? あ、違った、どなたでしょう……あれ、私とそっくりですねあなた」
なんという偶然でしょう、その小屋の主は海法避け藩国のぷーとらだったのです。二人は互いにそっくりな相手に驚いて目を白黒させますが、次第に狼はジゴロの行き先が最初からここであったことに気付きはじめてしまいました。
「あ、あなたさえいなければ更夜さんは僕のところにいてくれたのに…!」
嫉妬に狂った狼は、半泣きで目の前のぷーとらをぱっくりと一口に飲み込んでしまいました。悲鳴をあげる間もなく、海法避け藩国のぷーとらはお腹の中へインされてしまったのです。ついにジゴロのせいで悲しい愛憎劇が起こってしまいました。
そこまでが小屋の玄関前で起こった出来事で、それをうっかり目撃してしまったのが後から辿りついた本来の客人、赤ずきんでした。
「ぷ、ぷーとらさん!なんてことだ…!」
流石のジゴロも真っ青になって涙を流し悲しみました。彼ははたから見ればとても軽薄ですが、軽薄は軽薄なりに本命のぷーとらを心から愛してもいたのです。たとえ加害者もまたぷーとらであっても、それは許せる光景ではありませんでした。
「よくもぷーとらさんを…!」
相手が狼であることも忘れて詰め寄る赤ずきん、赤ずきんを愛しているので反撃もできない狼。狼とてやっちまった感もありましたがそれ以上に、自分以外の存在の為に悲しみ憤る赤ずきんの姿に切ない気持ちでいっぱいで、弱弱しい文系の腕力に押されただけなのによろめいてしまい、そのまま傍の井戸へとまっさかさまに落ちてしまったのです。
はっとなる赤ずきん、殺してしまうつもりまではありませんでした、目まぐるしく起こる事態に呆然として、恐る恐る井戸を覗き込みます。
と、その次の瞬間でした、まばゆい光と共に三つの人影が井戸から浮かび上がってきたのです。
「私は泉の女神」
「ここ、井戸では」
つっこむ赤ずきんの言葉をさっくり無視して女神は続けました。その両手にそれぞれ掴まれた二人のぷーとらがぷらんぷらんと垂れ下がっています。大した腕力です。
「あなたが口説き落としたぷーとらは、
この、乙女で頑張りやさんで健気な海法避け藩国のぷーとらですか?
それとも、サドッ気の見え隠れする毒舌乙女な、るしにゃん王国のぷーとらですか?」
それはジゴロで名を馳せる赤ずきんには辛い問いかけでした。
彼にとっては今まで愛を紡いできた海法避けのぷーとらも、ナンパしたばかりなのにここまで自分を愛してくれたぷーとらもどちらも魅力的で捨て難い存在だったのです、どうせなら二股しておきたい、男心でした。
「いいえ、どちらでもありません、僕が落としたのは
頑張り屋でときどきSだけどMな面もあって、なんだかんだで身体は男かもしれないけど
心は誰よりも乙女で純粋な、僕の愛するぷーとらです。」
本当は両方ですがそれ言うと多分没収なので、情に訴えて両方ゲットしようというセオリー通りの打算に満ちた回答を、赤ずきんはもっともらしく真摯に告げました。その眼差しには首根っこ掴まれてる二人のぷーとらも、女神も、一緒にきゅーんっとなってしまいました。
「あなたはとても正直者ですね、赤ずきん。
正直者なあなたには、海法避け藩国のぷーとらと、るしにゃん王国のぷーとら、
両方を返してあげましょう。大事にしてあげてくださいね。」
そう言って、まばゆい輝きと共に女神は井戸へと消えて行きました。
後に残された二人のぷーとらは、惚れ直しもいいところでうっとりとした表情で赤ずきんを見つめ、「やっぱり更夜さん、好きっ!」と叫んで駆け寄ってきます。こうして彼の計算どおりにハーレムは完成し、赤ずきんはその後もうはうはなジゴロ生活を送ったのでした。
おしまい。
とは、勿論いかず、乙女な二人は場面が切り替わった途端赤ずきんの争奪戦を開始してしまいました、嫉妬しない女の子なんていません、たとえ体が男の子でも。
「更夜さんは私のことが好きなんですっ、こ、これからもずっと一緒にいてくれるって言ったんだから…っ!」
「狼っぷりが下手で落ち込んでた僕をぎゅーってしてくれたのは更夜さんですよ!他にもあんなことやそんなことを昨日だって…!」
「昨日!?私に会いに来るまでにあなたに会ってたっていうんですか…!?」
険悪な雰囲気です、焦燥を掻き立てられる嫌なBGMに煽られ乙女達の赤裸々になりつつあるいい合いもエスカレートしっぱなしです。甲斐性のない赤ずきん、思わぬ展開に愕然としているうちに、二人が詰め寄ってきました。
「「どっち」」
「え?」
「「どっち!!?」」
とてもどちらかを選べる雰囲気ではありません。密会レベル3なのに!とか心中で叫んだところで無駄です。ぶっちゃけどっちも好きなんだぜ!と叫んでしまえれば楽ですが、その途端に刺されるか噛み殺されるかでしょう、男の本懐遂げるどころか散らされかねません。でもジゴロとして一人を選ぶとか無理です。そして葛藤の末に生存本能が欲に負けました。
「どっちも!」
言い切ってしまったこの男はある意味粋であったかもしれませんが、乙女二人の頭部でぶちりと何かの切れる音がしたのも事実でした。
駄目だ、殺される、背中から刺される、どうにか回避できないかと思考を巡らせた赤ずきんに向かって二人が突進してきました。その後は少し想定外でした。
両サイドからのラリアット、さすがは同一存在なのでタイミングもばっちりで、ぴったりと組まれた二人の腕の力で、赤ずきんの身体は軽々と後方に吹っ飛ばされました。そのまま、井戸へ。
高い水音が辺りに響きわたります。
「あなた達が落としたジゴロは―――」
遠くなる意識の中で、そんな声が聞こえた気がしましたが、もはや彼に選択肢など残されてはいなかったのでした。
めでたし、めでたし。