宰相府アイドレス 高機動箒の開発


この不可思議な兵器の開発は、こんな会話から始まる。
「空飛ぶ箒にクェスカイゼスが乗るんですか?」
「ええ」
「またがるんですか?」
「そうですね。」
「自重で股関節パーツが壊れません?」
「あっ……」
魔女っ子の夢を木っ端微塵にするような、身も蓋も無い疑問だった。

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TLOが解禁されている宙を舞う箒、その開発自体は非常に容易であった。
クェスカイゼスの重力制御機構を組み入れればよく、あとは必要に応じて加速するための推進システムを追加する程度である。
そこまで開発を進めたところで、厳しい現実に直面したのだった。

ロボットのための兵器がロボットを壊してはどうしようもない。
ひとつめの特異点である。とはいえ、まだこの段差は低かったといえよう。
簡単なことである。またがれないのなら、上にのればいい。

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「というわけで、立ち乗りできるように足を固定するストッパーをつけてみました。」
そういって提出してきたのは、ゲレンデにいるスキー客のような姿のクェスカイゼスのイラストだった。
「…なにこれ。」
「箒に立ち乗りできるよう、ストッパーを取り付けてみたんです。片足に一本ずつ装着すれば、安定性も出力も倍です!」
力説する開発者。言うことは全くその通りなのだが、
「なんというか…シュールね。」
「そのうち慣れますよ。あ、横乗りでよければ一本でも運用が…」
「やっぱりスキーなのね、却下。案としてはいいと思うけど、足回りが悪くなるんじゃないかしら。」
「いっ……」

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しかし、「箒に乗る」方法はもう出尽くした感がある。
ふたつめの特異点であった。
そう、箒に乗るのが無理なら、箒であることにこだわらなくったっていいのではないか。
余りにも大胆すぎるが、アイドレスではけして間違っていない発想。
とはいえ、どのような形に作り直すべきか…。なんといったって、要点がまだ「箒」しか満たされていないのだから。
いや、箒型じゃなくなればその要点も危うい・・。

頭を抱えて途方にくれた開発者。彼が気晴らしに訪れた夏の園で見たものは、朝露に濡れる蜘蛛の巣であった。

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「で、今度のトンデモアイディアは?」
「うぅ、否定できないのが悲しいところですが、まぁ今度は一番現実的なはずです。」
そういって広げた図面は、どう見ても箒ではなかった。
無意識にジト目になる秘書官。ボツを出される前にあわてて開発者は説明を始めた。
「まず、問題を整理してみましょう。
搭乗しながら攻撃ができる条件を満たす方法として空飛ぶ箒を用いる問題点は搭乗方法及び乗り手の自由度です。
またがれば本体破損の危険があり、上に立つには足回りや姿勢制御に問題が残ります。」

「そもそもこれは、根本の考え方が間違っていたのですよ。
 乗り物に乗る前提として、乗り手と乗り物を接続しなくてはなりません。
 ピケ然り、魔女の箒の乗り方然り、馬への騎乗にしたって、彼らはそろって『乗り手が乗り物を掴んでいる』のです。それでは自由に動けるはずがありません。
 であるなら、発想を転換しましょう。乗り手が乗り物を掴んでいるのではなく、『乗り物が乗り手を掴めばいい』」

「…なるほど。」
初めて秘書官が肯定の意を示した。好感触得たり、と開発者は内心安堵して話を続ける。

「ここまでの発想は、以前のスキー板案でも解決できているものです。
ですが乗り手の足が固定されていては攻撃に必要な体勢を確保できません。
つまり、もっと自由に『乗り物が乗り手を掴む』必要があり、また多くの攻撃体勢を構えられるだけの足場が足りていないのです。」

「そのために箒という棒だけの足場は捨てる、ということですね」
「えぇ、そのとおりです。」

そう、その図面は。
じゅうたんの形をしていた。

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I=D用の空飛ぶじゅうたん、それは誰もが耳を疑う内容。しかし、それは開発者の努力によって現実のものとなろうとしていた。
「棒の上という不安定な足場を放棄し、布という広い面積を確保することはほぼ自由な行動を可能にします。
 様々な直立の構えだけでなく、膝をついての狙撃体制や瞑想の姿勢などもとれるでしょう。
 そしてもう一つの問題であるじゅうたんと搭乗者の接続は弱い粘着物質による固定と、もう一つの搭乗者追尾機能で対応します。」

「追尾機能・・ですか。」
「はい。機体とじゅうたんにそれぞれ情報をあらかじめ登録しておき、
 常にその機体の足元にじゅうたんがあるよう追尾させる機能をつけることにします。そうすれば、ジャンプも緊急回避も思いのままです。
 また、景観としても軍の陣頭に置けば迫力がありますし、西国人国家である宰相府藩国の兵器としてふさわしいと思います。」

「なるほど、では、3つほど質問があります。
 Q1:じゅうたんの素材は何を使うのですか?
 Q2:じゅうたんの操縦は誰が?
 Q3:どこが箒ですか?」
「・・そう来ると思っておりました。そこまで考えております。
 A1:蜘蛛の糸の分子構造を模倣した合成繊維を使い、多世界で使えるよう加工します。理論上は大型I=Dが乗っても破れないほどです。
 A2:じゅうたんの操縦についてはじゅうたんに操縦席を取り付けてもかまいませんが、
    決戦兵器として華麗に運用するなら搭乗機体のコパイロット席にじゅうたん操縦用のコンソールを増設してもいいですね。
    なにせ高速移動のときはじゅうたんの操縦が不要で、戦闘行動中は自動操作で搭乗者を追尾しておけば落下の心配もありません。
    そこは実際に組み立ててみて、運用試験を始める段階になってからそちらで決めてください。」
 A3:じゅうたん自身は単なる足場であり、その両端にこれまでに開発した高軌道箒をとりつけます。
    高軌道箒に搭乗するプランとしてじゅうたんという足場を用意する、とお考えください。

しばらくの間。秘書官は十分悩んだあと、決断した。
「・・わかりました。ではこちらの企画書、宰相府に提出しておきますね。」
「おお、ありがとうございます! よろしくお願いします!」

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高機動箒の開発プラン v11 仮称:空飛ぶじゅうたん
サイズ
 一般人騎兵(シャクティ準拠)用 と クェスカイゼス用 の2サイズ
主素材
 蜘蛛の糸の構造を模倣した合成繊維 非常に高い柔軟性と耐久性を持つ
特性
 ・あくまでじゅうたんなので折れずに曲がる
 ・またその柔軟性からよく伸縮し、衝撃吸収能力も優秀
 ・弱粘着物質及び搭乗者追尾機能による転落防止・機体保持機能
推進システム
 ・メイン:クェスカイゼスの重力制御機構の転用
 ・サブ:エネルギー噴射による前方加速機構
 これらを追尾システムと合わせて箒型に整形し、じゅうたんの両端に設置する
追記
 ・オプションはじゅうたん表面の弱粘着物質を清掃するための箒
 ・コアシステムと搭乗部分を別パーツとして構成しているため、製作・整備コストがやや控えめ


L: 高機動箒の開発 = {
 t:名称 = 高機動箒の開発(イベント)
 t:要点 = 妙な伸縮(誤植ではない),曲がった,箒
 t:周辺環境 = 空
 

○宰相府側の要求性能
人騎兵(シャクティ,クェスカイゼス)のARを強化する騎乗兵器。
搭乗しながらの攻撃が可能であることが望ましい。
想定する運用機体がTLOであることから,高機動箒についてもTLOについて特に制限を設けない。
ピンポイント運用の決戦兵器(の一部)という位置づけ。