80107002
キノウツン藩国にて、敵大型要塞艦が発見される。
同日。
戦時動員開始。
新型I=D設計開始。
01107002
試作アイドレスロールアウト。
テストパイロット出撃。
21107002
るしにゃん王国。
朝、8時過ぎ。
更夜は執務室で仕事をしていた。
吏族の出仕があるとき以外はいつもこの部屋にいる。
普段はぼんやりしていて、まるで仕事をする様子はないのだが今日に限っては、違った。
そこへクレールが入ってくる。
扉を開けて固まっているクレールに気づき更夜は、やあと挨拶する。
扉を閉じて心を落ち着けるクレール。
そしてもう一度扉を開ける。
首をかしげて、もう一度やあと挨拶する更夜。
「……………ちょ……えええ? 何してるんですか? 何か悪い薬でも?」
「あー……私が仕事をしてるとそんなにおかしいかな?」
「変です! すごい変です!!」
間髪を入れず答える。
「しくしく……」
「泣きまねをしたって駄目です! ……ほんとにどうしたんですか?」
「………いや、北がね」
「………」
それだけでクレールにもわかったようだった。
北のキノウツン藩国で発見された大型の要塞艦……。
すでに噂はいたるところへ広まっている。
「もうすでに敵は、フィーブル藩国へ入ったようだと聞いている。………間もなく戦争になるだろう」
「……はい」
「ま、こんな時だ。私も仕事をしてみるかという気にもなるよ」
「今必要なのは……食料ですかね?」
「そうだな。義勇隊を編成して支援するには兵站が欠かせない。補給物資としても使えるかもしれない」
「わかりました。私もやれることをやりましょう」
昼。
時刻は2時を回った頃。
クレールは何か考えがあるのか、どこかへ出かけたきり帰ってこない。
更夜の方はというと……。
出前で取った昼食ももうとっくの昔に冷めている。
そのくせあれからほとんど仕事ははかどっていない。
藩国内の小麦農家からひっきりなしに連絡が入ってきているためだった。
どれもこれも自分の所の小麦を寄付するという申し出だった。
更夜は小麦畑を眺めてぼんやりするのが好きだった。
ちょくちょく執務室を抜け出して、小麦畑に行っていた。
時々は畑仕事を手伝うこともあり、農家の人たちとは知己だった。
彼らは同胞の危機にどうするか考え、更夜を通じて連絡をしてきたのだった。
「……私が国に勤めているといっても誰も信じなかったんだがなぁ」
申し訳ないような気持ちになるが、現実として今食料が必要なのは紛れもない事実だ。
申し出た農家をチェックしていた紙を見て、ひとつ息をつく。
「……おいおい、ほとんど全ての農家じゃないか」
更夜は、るしにゃん王に伺いを立てた後、徴収という体裁で農家に申し出を受ける旨を改めて伝えた。
夜。
9時前、やっとのことで滞っていた仕事を済まし出かける準備を終える。
先ほど共和国大統領から各藩国へ食糧増産命令が届いた。
暗い夜道を歩き、農家を訪れる。
一軒一軒順番にまわり、全ての農家を訪ねてお礼を言う。
どこの農家でも返事は似たりよったりだった。
「共に和して自由の旗に栄光を与えん、だよ」
「同胞の危機に黙って見ていられんだろう」
「お前さん、ほんとにお役人さんだったんだな」
生活はきつくなるだろうが、どこへ行ってもみな晴れやかな表情だった。
「………では、明日にでも使いのものが参りますので、小麦はそのものに持たせてやってください。本当にありがとうございました」
「いやいや、わしらにはこんなことしかできんからな。それはともかくお前さんにはその口調は似合わんな」
「はは……、そうかもしれないな」
「ん、……また遊びに来い。仕事をさぼるのは勧められんがな」
「ああ、すぐまた来るよ。戦争が終わって平時になれば……」
「そうだな」
こうして最後の家をまわり終えた時はもう、日付けが変わっていた。
おそらく、彼らは自ら食べる分や売るためのものだけでなく、来年の種植えにまわすものまで切り詰めて捻出してくれたはずだ。
すでに共和国大統領の名で各藩国には、食糧増産の命令が下っている。
近いうちに我が藩国るしにゃん王国でも藩国全土へ……全国民へ向けて、食糧増産が言い渡されるだろう。
だが、彼らは発布が下りる前に自ら進んで食料を差し出してきてくれた……。
更夜は、にゃんにゃん共和国民であること、そしてるしにゃん王国の国民であることを心から光栄に思った。
そして…………
31107002 朝。
るしにゃん王国全土にある政策が発布された。
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食料増産政策の実施のお知らせ。
藩国神殿機関による情報では、フィーブル藩国方面にて謎の武装勢力が現れたとの情報が入りました。
今後の状況次第では、援軍遠征や救援物資による支援などが想定されます。
我々は、共に和して自由の旗の下そうのような事態に備え、食料の増産を国民にお願いします。
各生産地域は、食料増産に尽力して下さい。
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食料は以前、まだまだ足りていない。
国民にはもっと負担を強いることになるだろう。
更夜は口をかみしめた。
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