食料増産計画? 漁業編

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21107002食料増産政策の実施のお知らせ。

藩国神殿機関による情報では、フィーブル藩国方面にて謎の武装勢力が現れたとの情報が入りました。
今後の状況次第では、援軍遠征や救援物資による支援などが想定されます。
我々は、共に和して自由の旗の下そのような事態に備え、食料の増産を国民にお願いします。
各生産地域は、食料増産に尽力して下さい。
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このおふれが出る三日ほど前,るしにゃん王国湖畔,猫の集会所もとい漁業組合寄合所にて。
いつものように漁師が集まっていて,いつものように1時間ほどの集会で解散する予定だったが,今日は違った。
一人の猫士が全速力で駆けてくる。

「どうしたにゃ?」
「にゃー。会議を盗みぎきしたら,北のにゃんこがピンチにゃ。それを助けるのに王様お金をたっぷり使ったにゃ。」
「おー」「王様イカスにゃー」「イカスミにゃー」「イカはたべられるにゃー?」
「北のにゃんこはピンチにゃ。きっと戦争が起こるにゃ」
「戦争はいやにゃー。」「ぬくぬくひなたぼっこが好きにゃー」
「よし,北のにゃんこがひなたぼっこできるよう,みんなでたすけるにゃ」
「おー」「おー」「おー」
「お金をたっぷり使った王様をたすけるにゃ」
「おー」「おー」「おー」

なんとものんきそうに見える会話であるが,これでこの猫士達は十分まじめであった。集中執刀持ってないしね。
早速,個人の趣味で行われていた夜釣りを仕事として早速行うことにしてみたものの,
「夜釣り」のためか漁獲高もそうあがるわけではない。
猫士の額で三匹集まっても文殊の知恵にはならないと考えた組合長は,理力使いに助言をもらうことにした。

「というわけですにゃ。」
「ふむ。」
組合長が事情を説明すると理力使いは神木とリンクし,情報を探し始めた。
「どうやら,新しい漁場を探すしかありませんね。」
「にゃ?」
「今使われている湖の漁場は古くから使われているせいか,
 今までどおりの,王国の食卓に並べる程度の漁には耐えることのできることわりが出来上がっています。
 ですが,そのことわりは漁獲高を今まで以上にするための漁の繰り返しには耐えられないのです。」
「にゃにゃ?」
「要するに,今やっている無理矢理な漁を続ければ,いつかお魚がとれなくなるということです。」
「それはやばいにゃ。くいっぱぐれるにゃ!」
「ですから,新しい漁場を探さないといけないわけです。」
「にゃるほど。」
「神木に尋ねてみたところ,候補地は二箇所あります。
 ひとつは王国の水源地にして,ミズノミコ神を奉る地底湖。
 もうひとつは湖のいつも漁をしている場所から遠出をした場所です。」
「ふむふむ。」
「どちらも多少の冒険がつくことになりますが,成功すれば一時的な増産の手立てとなるでしょう。
 ただし,そこに漁に行く間は以前の漁場で漁をしてはなりません。 そういうことわりです。」
「わかったにゃ。ありがとうにゃ。」

そして時はわずかに流れる。

王宮から離れたクレールは,メイドと吏族の仕事をそっちのけで湖畔で猫士を探していた。
以前夜食用のお魚を届けてくれた猫士である。
あれから毎晩届けてくれたものの,仕事のほうはどうなっているのか。
それを一度見ておきたかった。

だが,実際のところ。 漁港には誰もいない。
遠くを見るも,湖を走る船がない。というか船は全部港に停泊している。
見間違えたかと住所を確認したり隅々まで探すも,見つかったのは干物番の人だけで,
彼女によるとここ数日漁港はまったく活動していないとのことであった。
では,いったいどこに…?

数時間して何の手がかりも掴めず,あきらめて帰ろうとしたところ,陽気な歌が山から聞こえてきた。
なんなのかと歌の聞こえるほうに行くと,なんと巨大な魚を皆で運ぶ漁師が山から下りてくるではないか。
その中にはお魚を届けてくれた彼の姿もいた。あちらもこちらの姿を見つけ,駆け寄ってくる。
「メイドさんにゃー!いつからここにきてるにゃ?」
「ついさっきですよ。」
ついつい恋人と待ち合わせるときのような台詞を言ってしまうクレール。
「それにしても,この魚はいったい…,というか,どうして山から?」
当然の疑問に,猫士はさも自分だけの手柄であるかのように自慢げに話す。
「地底湖でりょーをしてきたのにゃ。新しい場所なら大漁ににゃるって理力使いの人に聞いたのにゃ。
 すごかったんだにゃ! にゃーは初めて行ったけどすごくおっきい地底湖でにゃ。それで…」
彼の話を聞きながら,クレールはその視線をさりげなく釣果に移す。
身の丈30mはあるかと思われるそれは頑丈な鱗で覆われており,それで手を切る猫士もいた。
これを仕留めたのは漁師たちだけの力では無理だろうし,恐らく理力使いの手も借りたのだろう。
これがるしにゃん王国なりの戦い方なのかもしれない。そう思った。

「・・・で,これはどうなさるんですの?」
「にゃー達もちょっと食べるけど,残りは全部北のにゃんこのために使ってほしいにゃ。」
「ほんとですか!? ありがとうございます。」
「メイドさんが礼を言うのはおかしいにゃ?」
「それなら,北のにゃんこに代わってお礼を申し上げます。」
「いいってことにゃ。困ったときはお互い様にゃ。」

こうして,その後も漁業組合の地底湖での巨大魚狩りは続き,
北のにゃんこのためのるしにゃん王国の食糧増産に大きく貢献したのだった。

おわり。