るしにゃん王国南部市街地
町並みの美しさで知られる市街地、明るい建物が並ぶ大通りも夜はひっそりと静まり返っている。
そんな時間帯には、大通りをちょっとそれた路地に活気が出てくる。
バー「猫神」、私の店もそんな路地の一角にあった。
数席しかない小さな店だけど、私一人生きていくのには十分な収入はあった。
旦那は、前の戦争に行ったきり、生きてるかどうかすらわかりゃしない。
生きていくには、このまま店をやっていくだけ……それだけ……
そんな私の店にも、ちょうどこの時間に顔を出す客はいる。
そろそろ来る頃だ。
カランカラン
「いつもの」
毎晩のようにやってきてくれるこの男、風漢と名乗っている。
「今日は、お疲れみたいですね。」
「…ああ、お上のお仕事でね。」
「あら、お役人さんだったら、もっとお仕事終わるのは早いでしょ?」
風漢さんは、それを聞くとちょっとだけ口元を緩めるて
「ちがいねぇ。」
毎晩こんな感じだった。
自分をお役人さんだって、いっつも嘘つくそんな人だった。
「今日は、待ち合わせてる人が来るんだ。1席だけ空けておいてくれないか?」
「ええ、かまいませんよ。といっても風漢さんだけしかいませんけどね。」
きょうは、うれしくは無いけど、いつもよりお客が少ない。
カランカラン
一人の男が、入ってきた。年齢は風漢さんより少し上といった感じだろうか。
男は、風漢さんの隣の席に座ろうとした。
「あ、すいません。そこは、そちらのお客さまから…」
「ママ、いいんだ。この人を待っていたんだ。」
男は、席に座ると一杯の蒸留酒を注文してきた。
「レビさん、どうだった?」
「ああ、なんとか見つかりましたよ。無名騎士藩国使者には、ここに来るよう伝えておきました。」
「そうか、いつもすまない。」
「いえ、正当な報酬ですよ。それにしてもいい店ですね。」
「ああ、もっといたかったんだがな……」
二人は、なんの話をしているんだろ。
いままでの風漢さんとは違う雰囲気がしてきた。
そんな時だった、何かが店の前にとまる音がした。
「着いたようだな、レビさん行こうか。」
「そうですね。」
「ママ、世話になったね。」
「何を言うんですか、もう二度とこないみたいに、悪い冗談はやめて下さい。」
そういうと、風漢は数枚の銀貨をカウンターにおくと
「じゃあな、いままでの礼は表に来てる。まもなく入ってくると思う。」
それだけを言うと、二人は無言で店を出た。
二人が、出た扉を見ていた、それからすぐだった扉が開いたのは……
今日は、本当にお客が少ない。
本当に、よかった。
もしかしたら、風漢さんは本当にお役人で偉いのかもしれない。
だから、お客さんが入ってこないようにしてたのかもしれない。
もし、お客さんがいたら、わたしが顔をクチャクチャにして泣くのを見られたかもしれない。
ありがとう、風漢さん。
扉が開いて、男が入ってきた。
涙が、こぼれた。
「…ただいま。」