「ふにゃ……」

 目覚めたときにはもう陽は天宙高く昇っていた。
 眠たげな目を擦って背にした大木の幹からゆっくり身を起こすと、その場で大きく伸びをする。
 周囲からは、木々の柔らかな香りと鳥のさえずる声。
 しばしの間、その心地よさを堪能するようにぼーーーっとしていたが。

 ぐぅぅぅぅぅぅ。

 自分の腹の音で目が覚めた。

「………はらへった……」

 とりあえず現在の状況を思い出してみよう。

1.なんとなく故郷を飛び出て、あてもない旅をふらふらと。
2.景色を楽しみながら歩いていると、気がつくと森の中。
3.何気にささった立て看板をみたところ、ここは「るしにゃん王国」らしい。
4.どうしようか考えたが2分で考えるのに飽きたので周辺を見て回る。
5.さらに彷徨ってるとなんだか眠くなってきたので欲望に忠実に睡眠。
6.起きて腹が減る。

 何も考えてないだけとも言う。

「うっせ! ……はぁ、にしてもどーすっかなあ……」

 とりあえず自分の考えにツッコミを入れて、今後の方針を考える。
 もともと故郷を飛び出たのも退屈だったからで、特にあてはない。
 そもそも今更故郷に帰ろうにも、てきとーに数日うろついてたもんだから 方角もなにもわかったもんじゃない。
 とりわけ問題なのは手持ちの食料が底をついていることだった。

 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。

 もう一度長く鳴った腹の音に、先ほどまで背を預けていた幹に後頭部をくっつけて空を仰ぐ。
 せめてもの救いは、今が好天に恵まれているということか。
 木々の隙間より差し込む太陽の光が、眠りこけていた瞼に痛い。
 なんかぐるぐるしてきた頭を押さえようと手を伸ばしかけて、


  ずる。     ぱたん。


 いつの間にか、幹からずれるように、横合いに身体が倒れこんでいた。 視界が薄い闇に覆われてゆく。

「あ………れ?」





王国周辺の森の見回り中。
国境に近い大木の下を通りかかった猫医師は、ふと瞳を見開いて足を止めた。
背後から問いかけるように首を傾げる弟子の視線を気にもせず、発見した思わぬ"もの"へと近づいて確認する。

……大丈夫なようだ。
だが、このまま見捨てておくわけにもいかないし。

「…まぁ、とりあえず持って帰るか」
「……え! 食べちゃうんですか?」
「ボコるぞこのバカ弟子」



持ち帰られた"もの"の名は、はやてという。