神殿、文族執務室
帰化申請者がいない場合は、幽はいつもここにいた。
今日も、執務室では一人文章校正を行っていた。
同じく、机を並べる同期のちゃきの机には一枚の紙切れが
『釣りに行く、あとはよろしく♪ かすにゃん』
まったく、あの人は猫型宇宙刑事より働かないんじゃないのかと思いつつも作業を続けた。
新たな施設やアイドレスの申請、その他大きい仕事は大抵終わっていた。
それでも、色々とやることはあった。
それら書類を次々と校正していくのが、幽の仕事だった。
文章を一から作るわけでも、技族のように自分の作品が生まれるわけでもない。
言ってみたら、完全な裏方だった。
作業がひと段落すると、幽は椅子にもたれ掛かって背伸びをした。
「ふにゃー。」
とまったく気が抜けたにもほどがあるようなあくびをした。
「お疲れ様です。」
がしゃーーん!
誰もいないと思って気を抜いていたところに、いきなり声をかけられ
幽は、椅子ごと倒れる。
「だ、だいじょうぶですか!?」
そう言ったのは、技族のテルだった。
「テ、テルさんいつのまに入ってきたんですか?びっくりしましたよ。」
「え、私ちゃんとふつーに入ってきましたよ!ノックもしました…きっと」
「はは、すみません。」
幽は、ちょっと気を抜きすぎたかなっと思った。
「それで、テルさんどうしたんですか?」
「そうです、飲み物を持ってきたんですよ。藩国改造の後処理なされてるって聞いたんで。」
「ありごとうございます。」
テルは、あたりをきょろきょろすると
「あれ?ちゃきさんもやってるって聞いたんですけど」
「ちゃきさんは、これ」
そういって幽は、ちゃきの書置きをテルに手渡す。
ヽ(`Д´)ノ
「ゆうみさんに言ってボコボコにしてもらわないと!」
「…はは」
最近自分もボコボコにされそうな幽は、苦笑いで返した。
「あ、そうです飲み物です。さめないうちにどうぞです。」
そういって、テルは湯飲みを幽に差し出す。
中は、黒い液体が入っていた。
「コーヒーですか?いただきます」
「あ、ちがい…」
ごくりと飲もうとすると不思議な感触が喉に入ってきた。
まるで、呼吸器系が活動不能に陥る寸前のこの感触は…
「それ、お汁粉です。」
幽の顔が見る間に青ざめて行った。
「た、大変です。」
テルが、ばんばんと背中を叩くとやっと溜飲できたか、幽の顔色が戻っていく。
「大丈夫ですか?」
「はぁはぁ、なんとか。…おいしかったです。」
「それは、よかったです。ちゃきさん、いないならちゃきさんの分は飲んじゃえ。」
そう言って、お汁粉をいただいて少し休憩をするとテルは、部屋から出て行った。
それから、幽は午前中の仕事を済ませると
お昼にした、昼食は自前の弁当だった。
にゃーん、誰かがつくってくれたらいいのになぁ等目をつぶってと考えていると。
「いま、手作り弁当食べたいと思っただろ?」
いつの間にか、目の前に更夜さんが座っていて、勢い良く後ろにぶっ倒れる。
起き上がりながら
「更夜さん、いつのまに」
「いやあ、おいしそうな匂いがしたからね。きょうは、ぷーとら来てないの?」
毎日くるはず無いのに更夜さんは、毎日ここに遊びに来てくれている。
「今日も、よけのほうに行かれてるみたいですよ。」
「うん、この竹輪おいしいな。」
「…聞いてない。」
そんなこんなでお昼が終わると、更夜さんも吏族に出仕されていった。
さて、次の仕事は…っと思って、かすかが机の一番大きな引き出しを開ける。
中には、一人の少年
「よう、かすか。」
ばたん
引き出しを一旦閉めると目をこすってもう一度引き出しを開ける。
「何回もあけんなよ!」
「は、はやてくん!なんでこんなとこに!?」
はやては、指を口元にやると
「しーっ、オレの名前だすなって、いま鷹臣とリアルかくれんぼしてるんだから。」
「ここか!」
執務室の扉が一刀両断されて吹き飛んだ。
とっさに、かすかは引き出しを閉め、扉のほうを見る。
「た、鷹臣さんどうしたんですか?」
「かすにゃん、はやての野郎見なかった?あの野郎見つけたら確実に二分割してやる。」
「はは、なにがあったか分かりませんけど。いま、あの窓から出て行きましたよ。」
そういって、かすかは開いた窓を指差す。
「にがすかーっ!」
そういうと、鷹臣はなんの躊躇もなく窓から飛び出していった。
ちなみに、ここは3階である。
はやては、引き出しから出ると
「かくまってくれてさんきゅ、ここも危なそうだな。じゃあ、違うとこ行くよ。」
「いったい何やったの?」
「そいつは、言えない。」
「まあ、いっか。仲良くけんかしてね、はは」
「おう、じゃあな。かすにゃん」
そういうと、はやては扉のあったところから走り去っていった。
楽しそうな鷹臣とはやてを見てかすかは、つぶやく
「…鷹臣さんもはやてさんもこの国になれたみたいでよかった。」
「本当ですね。」
音もなく、るしにゃんが立っていた。
幽は、自分がそんなに鈍感なのか、みんなが音も立てずに歩くのが得意なのか、
不思議に思ったがもはや気にしないことにした。
そんなところに、摂政のS43が入ってくる。
「見つけた!藩王!まだ、承認してもらわないといけない書類が山ほどあります。執務室にお戻りを!」
「にゃー!てことで、かすかさんお仕事がんばってねー!」
るしふぁも鷹臣が出て行った窓から飛び出していく。
「ちっ、逃がしたか!衛兵!追え!!」
「摂政も大変ですねぇ、はは…」
「それほどでもありませんよ。それでは、かすかさんもがんばって下さいね。かすかさんの仕事あってこそ表が良く見えるんですから、それじゃ。」
そいういと、S43は立ち去っていった。
幽は、今日は疲れる一日だと思った。
でもみんなでこうやって、仲良くやっていけると思ったら、なんとなく疲れがふっとんだ。
そう思って、窓の外を眺めるとアルフォンスがテラスに立ち風をあびているのが目に付いた。戦争があって傷ついたり色々あった。これからどうなるか分からないが、今日みたいな日が続けばな…そう思いふたたび作業を始める幽であった。
**適当な追記**
ふと何かに気づくと、作業を止め、幽は虚空を眺め、怖がらなくていいよとやさしく微笑んだ。
幽の目には、確かに亜細亜が映っていた。