戦争準備状況 S43サイド

戦争前夜

-深夜 るしにゃん王国星見台-

その男は、突然の戦争準備に追われ、喧騒に包まれる王宮を離れ、一人天文台に足を運んだ。
摂政などという分不相応の職務に付き、このところ、忘れがちだった己が本分を取り戻したかったのだ。

「世界に満ちる謎を追う」
それが、この男がここに居る本来の理由だ。

一年前、ある課題を任された。
世界移動というあまりにも根本的な謎であり、かつ、いまだ全容の掴めない謎に絡む課題だった。
謎ハンターのトップの一人である海法氏とも意見を交わし、自分ではそれなりに自信を持って回答した。
世界を越える歌が、多くの同胞によって歌われ、課題はクリアできたと信じていた。

しかし…

数ヶ月後に知ったのは、送り届けた筈の水の巫女セーラが死亡したという訃報だった。

そんな馬鹿な!
ハノイ空港にも居たじゃないか!

自分の不甲斐なさに絶望し、謎ハンターを辞めようとも考えた。
だが、自分の不始末を他人任せにするほど枯れても腐ってもいなかったのか、もう少し頑張ってみる決意をした。

白いオーケストラ前哨戦にかこつけて、可能性を探ってみた。
不発だった。

まだチャンスはある!
あきらめてたまるか!

ターニの帰還ではレムーリアまで出向いていった。
首尾よく海の女神に会えたところまではよかったが、交渉に失敗し、頭を潰された。
悪足掻きも考えたが、結局はセーラを助けてもらう約束もできなかった。

また、心が折れそうになった。
だが、諦められないのは自分だけじゃないことも知っていた。
海法さんも諦めていない。

アプローの涙とともに始まったアイドレスというゲーム。
そこには
「アイドレスコースとともに成功するとセーラコースが開かれます」
とあった。

これだ!
もう一度、もう一度チャンスがある!

受験を控えているのにるしふぁさんは藩王としてチャンスをくれた。
ネガティブで有名な幽さんも年末は地獄をみている筈のはっぷんさんもセーラの為ならば、と力を貸してくれる。

人生持つべきは友なのだと涙が出そうになった。


……
それにしても。
根元種族とは何者なんだ?

泡から出たのはビアナ
地面を割ったのはセマ

先日藩王を襲ったオズルはセマの配下に思えるが…
猫はビアナに属する筈だ
わんわんと敵対するのはわかるが、我らにとっても敵なのだろうか…

2色のオーマが現われた以上、残りのオーマも遅かれ早かれ姿をみせるだろう
この国は森と湖の国だ
ガンプはともかくとしても、メルの加護は受けられないだろうか…

ダメだ…。
まだ、なにもわからない。
いや。
エース達なら、既に何かを掴んでいるのだろう。

己の未熟を噛み締めながら天文台を後にする。

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王宮の会議室には主だった面々が集まっていた。
その中に見慣れぬ顔があった。

まだ年若い女性だ。

(新入りか…)
(こんな濃い国に入ろうとは、奇特な人もいたもんだな)

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開戦直前というタイミングで現われた新人との面通しを終えて、男は再び星見台に戻っていた。
王宮では夜通しで開戦準備をしている。

自室の机に向かい、肘をついて考えを巡らせている。

なかなかに個性的な新人を加え、士気のあがるるしにゃん王国だったが、状況はそう楽観できない。
根元種族の侵攻を受ける前の蓄えも三度の冒険で少し減っていた。
そんな状況での戦争準備金の出費は資金も燃料も殆ど吐き出す結果になった。

思えば再スタート直後にニーギとクルスを招致して、修行を頼んだのも失策だったのかもしれない。
いや。
アレがあったからこそ、王もエースも生きているのだ。
鷹臣さんという新しい力もこのおかげだ。
結果オーライと考えるべきだろう。

次期I=Dの設計は技師長のはっぷんさんが寝食を削ってやってくれることになった。
地獄から生還して、又別の地獄へ送り出すようで心が痛んだが、我国にとっては最善だと判断した。
I=D支援機と装備はテルさんと七海さんが担当してくれた。
二人ともノリノリで設計している姿は本当に頼もしく思えた。

これまでも地道に小銭を稼いで国庫を回してきたのだ。
小国には小国の戦い方がある。
幸い士気は高い。
各々が自分のやるべきことをやるだろう。

男は小さく伸びをしてから、筆を取り、何かを書き始めた。

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太陽が湖面を白く染めながら昇っていく。
朝霧のたちこめる森を眼下に望み、男は星見台近くの絶壁の上に立っていた。
紫煙くゆらせながら、日の出を眺めている。

戦いは目前に迫っていた。