フィーブル国へ出兵する前日、鷹臣は同居猫のクリスを胸に抱いて地底湖の岸に座り込んでいた。
今回、帝國側に現れたオズルは彼女が入国する直前にこの国に現れたと聞いて、とりあえずその時の様子を王立図書館で調べてみた。そして凹んでいた。
ふーんだ、先輩がき、きき……嗚呼ッ!言葉にするのも口惜しい!!とりあえず、そんなことは百も承知だったもんね!ソレぐらいで諦めるようなら、全国彷徨った挙句この国に出仕してなんかないからね!!
全部声に出ているのだが、ソレを教えてくれるような親切な(且つ勇気のある)人物も猫も此処にはいない。
金毛で碧眼だからと―――教えてもらえなかったとも言う―――付けた名前が悪かったか、或いは元々この猫達の性質か。多分両方。
クリスも双子(らしい)銀河もまず喋らない。一ッ言も喋らない。鳴き声すら上げない。
こんな風に愚痴っていても反応一つ返されないと、さらに凹むと言うものだ。
嗚呼、クレールさんの所のくろた…だっけ?良いよなぁ、仲良さ気で。幽さんの所のブリアンだってなんだかんだ言ったって息合ってるしなぁ……え、もしかしなくても私ロンリー!?
「って!痛ッ!!?痛かったよ、今!!」
クリスの尻尾顔面直撃。この威力はやはり名前(暫定仮名)の所為か!?そうか、そうなんだな!?
首根っこ掴んでぶらーんとしてみるも、何てふてぶてしい顔!!悪いなんて欠片も思ってないだろう?お、おのれー。
「……何でこんなやつらと友達してんだ私……。」
て言うか、こいつら私のこと友達だと思っているのか。考えたら余計切なくなった。
うぅ……先ぱぁい。私とっても寂しいです。
「って!痛ッ!!?二回目か、こんちくしょう!!」
何でそんなに自由自在に動くんだよ、その尻尾。
うっかり先輩からとった名前を付けただけに、普段るしふぁ王に対するような反撃に出るわけにもいかず。恨めしげに睨み付けているとクリスは身を捩って拘束から逃れた。
そのまま優雅に着陸すると、そのまま出口の方へと悠然と歩き出した。
置いてけぼりか。同居猫にも置いてかれるのか。くそぅ、寂しいなんて思わないんだからね!でも腹立つからあとでるしふぁ王に八つ当たりしとこう。
今度は口から漏れることもなかった。大体において必要な事ほど内に籠もり易いのは未だに直らない癖だった。
でも凹んでるところに畳み掛けるように嫌な事が起こると涙も出ると言うものだ。堪え切れなかった嗚咽が漏れる。
あー、このまま此処で野宿しちゃおうかなー。家に帰ってもあの猫ども見るのは辛いんだよー。へーんだ。
そんな感じで完全にいじける前に、何かが聞こえた。
「?」
「ナァゥ。」
「……うそん。」
10mほど先に爛々と輝く蒼青い目が見える。―――宝石みたいだと思ったのはこの先ずっと内緒だ。
*****
「だぁぁー!此処寒いよ、寒い!!帰ろ帰ろ!!」
小走りで追い掛けて、もう一度胸に抱き上げて洞窟の中を走り出す。体が吃驚するぐらい軽かった。
「先輩に会うまで負けるわけにはいかないもんね!明日は戦闘だし、先輩来るかも知れないし!!
あ、私戦闘初心者だからフォローしてよね、クリス!!」
「…………。」
あからさまに無視されたが、今回ばかりは許してやろうと思った。
*****
で、ドタバタと帰宅して既に寝付いていた銀河を起こし朝まで大乱闘を繰り広げるのはまた別の話である。