帰ってきたソックスハント!

るしにゃん王国 国会

「今度はどんな冒険に行きたいですか?
 ええと行けそうな所では、失敗したら死ぬやつと、安全そうなやつが・・・」
すかさずギロリとゆうみが睨む。その手にはメスが。
「あ、あははー。とりあえず死なない冒険がいいですねぇ」
昨日のちゃきのボコられ具合を思い起こしたのか、
冷や汗を浮かべつつ半ば棒読みになるるしふぁ。

「ごほん。まだ冒険に行っていない者が行けそうな所にしましょう」
さすがは摂政。ニヤリとしながらも助け舟を出す。

「まだ冒険に出ていない人はー?」

「はい」更夜。
「わたしもです」クレール。
「かくいう私もですね」と摂政S43。
ほかには、とみんなが思った瞬間、部屋の入り口付近から声がした。
「あー。冒険ですかー」

ええっ?と振り返ると、
そこには設計室にこもりっきりで悲惨な姿になり果てたはっぷんの姿があった。

「はっぷんさん、の、ような人が」
「の、ような人って」

「あ、いや、これは失礼」
模型作成用の粘土にまみれた顔を、これまた粘土やらなにやらで汚れた白衣の、
なんとか白いまま残っている裏地を使ってごしごし拭うと、そこには確かに見慣れたはっぷんの顔があった。

「はっぷんさん、いたんですか・・・」
驚くるしふぁ。
「私、何日ぐらい篭っていたんでしょうかねぇ?」
一同絶句。
なにか時間の流れがおかしいような気分になった。

「えーと。じゃあはっぷんさんも冒険行きます?」
「おもしろそうですから、たまには体を動かしてみましょう」
「わかりました。じゃあこの4人でいいですかね?」
「あ、はい、じゃあお願いします」

「はっぷんさん、一度体を清めてこられてはいかがです?」
気遣うクレール。
「俺のぷーとらが怖がっています。是非ともお風呂へどうぞ」
続く更夜。
「こんなこともあろうかと、
 さっき湯船にお湯をはっておいたので、すぐにでも入れますよー」
テルは準備がいい。…こんなこともあろうかと?
「すみません、では、お言葉に甘えて」

「ではどんな冒険に行きましょうか」
本題に戻ろうとする執政S43。
そこへ、七海がやってきた。
「すいません、伝言を預かってきました。
 幽さんが冒険のアテがあるので、メンバーを呼んできて欲しいとかで」

「あー?お前が来いって言っとけ」
怪しい幽の動きを訝るゆうみ。
るしふぁ王も不信に思いつつも、
「うーん。いやまあ行くだけ行ってきてもらいますか。
 なにか大事な話なのかもしれませんし」
4人に行ってきてもらうよう指示を出す。

「にゃはは〜♪」
笑うアルフォンス。
「気をつけて行ってきてねー、とのことです」

どうしてるしふぁ王だけアルフォンス様の言葉がわかるんだろう?と首をかしげるものがいた。
最近この国にやってきたはやてである。
「ま、気にしないでおこう」
考えても仕方ないし、そんなもんなんだろうな、ここの国。
今回は出番なしだなー、けどまぁ面白そうだ、と見物することにした。

こういう細かいことを気にしない者はこの国にすぐ順応することだろう。
よきかなよきかな。

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るしにゃん王国政庁府の別室。
薄暗い執務室、
そこに設置された映像通信機のスクリーンに一人の男が映っていた。

「王が死にかけた時にはどうなることかと思いましたが、
 旅人の手によって助かったようです。
 彼らには感謝しなければいけませんね」
机の前で手を組み、無駄に偉そうに話す幽の姿であった。
「どうでもいいですが、こうしているとわたしはまるで遺影のようです」
その画面の前には彼に呼び出された4人の男女がいる。
摂政S43に技師はっぷん。
それに、吏族出仕から返ってきたばかりのクレールと更夜。
主に裏方で王国の屋台骨を支えている重鎮たちである。

「ええと、皆それぞれの仕事で忙しいんで、
 貴方の準竜師ごっこに付き合う暇はないんですが。
 冒険のアテとは何ですか、幽さん」
問うS43。

「せっかちだなあ。
 ええと、頼みたいことがあります。
 なぁに、簡単なことですよ。
 
 ……諸君らには、ちょっと靴下を狩ってきてもらいたい」


「じゃあ、わたしはこれで失礼します」
クレールが立ち上がり部屋を出ようとする。
他の3人もそれに続く。

「ちょ、待って待って。話は最後まで聞きなさいな。
 わたしの極秘ネットワークによると、
 伝説の靴下狩人が王国内に侵入したらしいんですよ。
 そして王国内に秘蔵の靴下群を隠していったとか。
 この情報が露見すると、
 ここでソックスハンターたちが集まり争乱が起こる恐れがあります。
 これを未然に防ぐために、その靴下を見つけ処分してきて欲しいのです」
幽は腕を振り上げながら必死に語るが、
4人はあまり気が乗らない。

「うさんくさい情報…」
「靴下で戦争なんて起きませんがな」
「だいたい、わたしたちは靴下に興味がないです」
文句を垂れる面々。

「ええ、ええ、そう言うと思いました。でも、ですね。
 その秘蔵靴下にタキガワの靴下が含まれていると言ったら?」

「!?」
顔色が変わるクレール。

「セーラの靴下が含まれていると言ったら?」

「!?」
顔色が変わるS43。

「野蛮なソックスハンターの手にこれらが渡る前に、
 王国としてこれをどうにかする必要があるんじゃ〜ないかな〜」
幽はなにか嬉しそうに話し続ける。
「そ、そんなことでわたしたちが釣られるとでも…っ」
「そ、そうだ、だいたいなんでそんな靴下がここにあるんだ」
呻くクレールとS43。

「侵入したハンターが世界移動者なら、大して不思議でもないでしょう。
 なんと言っても伝説ですから。
 ああ、それと、処分方法は皆さんに任せます。
 廃棄したと言って自分の懐に入れてしまってもわたしにはわかりませんが、
 まさか皆さんがそんな違法なマネをするわけがないですよね、ははは」
満面の笑顔な幽。

「私は帰っていい?」
「ああ、更夜さん。
 それがですね、ぷーとらさんの靴下が行方不明なんです。
 もしかしたら伝説狩人に…」
「乙女の危機とあっては、行くしかないな」
「そう言ってくれると信じてました」

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「べ、別に靴下を探しに行くわけじゃないんだからねッ!」
そう言いながら部屋を出ていく面々。
「はーい、行ってらっしゃ〜い」
パタパタと手を振る幽であった。

と。

部屋にはまだはっぷんが残っている。
「あ、はっぷんさん。舞の靴下も混ざっているらしいですよ」
「ふむ…ええと、幽先生。
 確認したいんですがセーラって靴下はいてましたっけ?」

「ぎくっ」
幽は目をそらした。

「…やれやれ。そんなことだと思いました。
 まあ、心配なんでわたしもついて行きますよ」
あきれた様子で首を振るはっぷん。
「…そうしてくださると助かります…」
深く頭を下げる幽であった。


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るしにゃん王国北東部 山岳地帯


険しい山中を進む4人。

「こんなところに、本当に靴下があるんでしょうか…」
「もらった捜査資料では、そうなっているけどなー」
「このまま上に行くと星見台に出ちゃいますね」
「わたしらのホームベースですな」

星見台とは、山の頂に造られた星見司たちの施設である。

「星見台に行く時は正規の専用路を通るが…
 この山はけっこう険しくてまともに登ると大変ですよ」

「なあに。王国の諜報活動を担う忍者である私らにかかれば」
「この程度、なんてことはないですよ」

更夜とクレールが先行し、次々と難所を突破していく。
S43とはっぷんも、助けられたり理力で浮いたりしながら
なんとかついていった。
そうして山頂近くに差し掛かった頃。

「おや?」
クレールが、山肌の一部が色が少し違うことに気づいた。
「これは、一度掘った後に上から土を被せてますね」
「じゃあここに靴下が?」
「掘り返してみましょう」

4人で穴掘り作業。
すると予想通り、袋に密封された靴下が姿を現した。

「出た!」
「でも1足だけ…?」
こんなもんなのかなーと、首を傾げる一同。
だがS43は諦めなかった。

「…違う…。これは…囮だ!」

「な、なんだってーー!?」
「S43、それは本当か!?」

「そう、これはわたしたちをここで帰らせるための餌…。
 本当の獲物はまだ隠されている!
 はっぷんさん、理力迷彩が施されていないか
 周囲を感知してくれませんか」

「やってみます」

周辺を理力でサーチする、理力使いのS43とはっぷん。

「……見える、私にも敵が見えるぞ!
 そこの木に理力で覆いがされている。
 S43、私を導いてくれ!」
叫ぶはっぷんに頷くS43。
「解除してみよう」


数分後。

「……こ、これは…っ!」
「凄い光景ですね…」

そこに現れたのは、枝から無数の靴下を垂らした大木の姿であった。
かなり凄まじいものがある。
「なんというか…わたしはこの光景を一生忘れられないと思います…」
「そうですね…わたしもだ…」


「おお、ぷーとらの靴下がある!」
いそいそと回収する更夜。
「更夜さん…どうしてあの無数の靴下の中から
 ぷーとらさんの靴下が一目でわかるのかしら…」
「まあ、じごりんだからなー。
 しかし、やっぱりタキガワの靴下やセーラの靴下はなかったなー」

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結果、派遣部隊は靴下を全て回収。
回収した物をよく調べたところ、それらは全てるしにゃん国人のものであった。
さらには周辺の村や町で、靴下の盗難事件が相次いでいたことが判明。
1足1足を国民に返していった彼らはとても感謝されたという。 

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後日

回収された靴下を検分する幽の姿があった。

「残った、身元不明の靴下はこれで全部か…」
目当てのものが発見できず、首を振りうなだれる。
幽が得た情報では、
国に侵入したソックスハンターは
最近るしにゃん王国に来た旅人からもソックスハントに成功したという話だった。
つまり。
「ニーギのニーソが、あるんじゃないかと思ったんだがなあ…。
 考えてみれば、ニーギのニーソックス盗んだりして生き延びられるとも思えん。
 甘かったか」
立ち上がる幽。
振り返るとそこには、

「変態…」

柱の影から、ジト目で幽を見やるるしふぁがいた。

「うあ、閣下。いつの間に。
 いや、わたしがニーソを欲しかったわけじゃなくてですね、
 ニーギは人気キャラなので
 きっと高く売ったり今後の交渉に用いたりできるんじゃないかと思ったんですよ。
 ええ、ええ」
「ふーん。まあ、いいですけど。
 …あれ、そこの靴下。デザインがうちの国っぽくないですね」
一つの靴下を指差す。

「これは…男物のようです。
 国内のものでなく、かつ男物ということは…」
「あ。そうか、なるほど。やってきた旅人はニーギだけじゃない。
 得た情報は、来須先輩の靴下のことだったのか!」

≪るしにゃん王国は、クリサリスの靴下を手に入れた!≫