陸軍兵站システム

登録アイドレス − 技術アイドレス

L:陸軍兵站システム = {
 t:名称 = 陸軍兵站システム(技術)
 t:要点 = 兵站,補給所(デポ),トラック
 t:周辺環境 = 食糧生産地,食糧生産に向いた地形
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *陸軍兵站システムの技術カテゴリ = ,,組織技術。
  *陸軍兵站システムの特殊効果 = ,条件発動,(陸軍兵站システムを運用する国の)戦闘動員による食料消費75%(×60%)
 }
  t:→次のアイドレス = 補給士官(職業4),航空機・輸送機の開発(イベント),大規模修理工場(施設)
 食料生産地が取得したSHQの継承により、削減率がさらに60%されます。 →申請記事


森の開けた場所にある田畑。それぞれの季節ごとに食物が豊かに実る恵みの大地。
その脇、田畑片面を占める森沿いに、一本の整備された小道が通っていた。
その道幅は、通り、という程には広くないし、かといって人1人がようやく通れるような細道でもないから、やはり小道というのが妥当だろう。 そこを、大八車を押した人々が、作物の様子を眺めながら、通り抜けていく。
ちなみに、小道も大八車も、英訳すればトラック、である事をここで補足しておく。この補足は大半の人にとって意味不明であろうが、なに、気にすることはない。
その大八車には、加工場で加工されたばかりの食料が大量に積まれている。 それらは簡素な弁当という形をとっており、木製の箱で小分けにされ、番号札が付けられていた。札は数量管理を簡易にするためである。
なかには、木は、どの世界にもありますと、ちょっとずれた答えを述べる者もいるだろう。
この木箱は各種コンテナに適応できるよう研究されたサイズになっており、特に空輸用コンテナ規格には非常によく適合している。 まるで、自国で空輸を行うことを想定しているかのようであった。

運んでいる人は、胸に兵士であることを示す印をつけていた。補給兵といったところであろう。
この小道は、田畑を抜け、森を通り、その森が開けた先で、同じように整備された小道達と合流していき、広場へと繋がる。 広場には物資管理所が建てられており、このように運ばれてきた食料が、補給士官によってチェックされ、一時集積される。
そしてこれらの木箱は、戦線に応じた輸送方法によって、新たにコンテナに積み込まれたり、あるいはこのままで、聯合国の支援をときには受けながら前線の兵士のもとへと届けられるのだ――

○輸送力の探求

るしにゃん王国の陸軍兵站システムの開発において、輸送能力の確保については逆接の言葉の連続であったといえる。 なぜなら低物理域特化を誇るるしにゃん王国には、システム開発における大問題があった。
補給の要である大量の物資を長距離輸送する方法が、ない。

馬車があるというような国家設定もなく、エルフは徒歩で歩くという文化がそのまま残っていると考えられている。 科学技術の導入もないため車両やエンジン航空機などの輸送機械もない。かといって隣人のトラリスを使役獣のように扱うわけにもいかない。 共に農作業をする、一緒に戦線に出る、という話ではなく、単に荷物を運ぶだけであるからだ。

兵站システムとは遠征地の軍隊が継戦可能なようにするためのシステムであるため、遠距離輸送手段は必須である。 るしにゃん王国の陸軍兵站システムはそもそもの前提の時点で頓挫してしまっていたのだった。

システム開発を決定したはいいけどどうするのこれ、と戦略ミスを軍部は多いに悩んだ。
そもそもにして、るしにゃん王国に正しい形で近代の技術や兵器を導入することは不可能に近い。
私達の生き方に則した新しい技術のあり様を研究しなくてはいけないという点で、
既存の技術であるにも関わらず、見たこともない新技術の開発に等しい難問が王国の技術開発者達に課せられたのであった。

しかし兵站システムの開発が始まったころは魔法排斥の流れが強く、技術らしい輸送技術の開発は難しかった。 そこで開発者は一つのどんでん返し、正確には開き直りに近い結論を導きだすにいたる。
「輸送機がつくれないのなら、輸送機を借りればいいじゃない。」

兵站物資の長距離輸送が必要なほど遠征をする場合、それをるしにゃん王国1国だけが行うことはまずない。
間違いなくFEGなどの技術ある聯合国との共同出兵になる。
であるならば、自国の細いラインを作るよりは、他国の太いラインを借りるほうが効率的ではないだろうか?
そう考えた結果、開発担当は輸送力の確保をまるまる放棄して、物資を収納する輸送コンテナの統一規格化に着手した。
他国の輸送ラインを借りる場合、気をつけなくてはいけないのは他国の規格との衝突だ。
当たり前ながら、輸送機の扉より大きかったり、他国のコンテナを邪魔する形状は輸送力を借りる我々の失礼になる。 そうして数々の輸送機のスペックを取り寄せ、比較し、計算を重ねることでコンテナは作られた。
森国人らしいスタイルとして、木製の箱は金属を一切使わずに組み立てられている。
その金属の一切を廃した形は、輸送方法さえ選べば全物理域に対応することができるという素敵な副次効果を与えていた。 あとは編成・行軍の際に交渉を行い、輸送量の空きを貰い受ければよい。
以上の準備によってひとまずの輸送システムの構築を得て、技術開発は次の段階へと進むことになった。

しかしそれで輸送システム完成と言えるほど、世間は甘くなかった。

その後補給物資の開発を進めたところ、王国独自の輸送手段の開発は避けえぬものとなってきたのだ。
とはいえ、この段階に至った時期もなお魔法排斥、技術嫌悪の流れは続いていて、
この問題が解決するのは、国内の流れが変わる、実にT17になってからのことであった。
実際には魔法に対する見方がが変わったのはT16のころからであったが、その頃はまだ技術の見直しがはじまったばかりで、とても何かに利用するには難しい状況であった。
そしてT17の激動を乗り越え、T17の国外交流が盛んな時期を過ぎて、ようやくそのきっかけを得るに至る。

とはいえ先述のとおり、いまのるしにゃん王国には人の代わりに物資を運ぶ技法はない。
着のみ着のまま、あるいは自らの膂力で運べる程度の荷物で何事も済ませる習慣があるからかもしれない。
それはそれで、旅装・兵装の開発前提として大いにるしにゃん王国を支える考え方だったが、今回はそういうわけにはいかない。
そこで考えられたのがるしにゃん王国の外の考え方の導入、すなわちゴロネコ藩国より学んだ白魔法の技法、中でもゴーレムの魔法であった。
人の魔法でのみ動く人形であれば、隣人たるトラリスや動物達を使役しなくてすむだけでなく、魔法という面でなら、セキュリティ面の確保がるしにゃん王国でも可能であるからだ。
こうして作られたゴーレムは、馬が食べるマメ科の草で編んだ手縄を触媒に藁で編んだ馬、藁馬であった。
藁で編んだ馬、藁馬とは長野〜東北方面で古くから作られる工芸品である。
藁馬は本来は神事に用いられるもので、地方によって多くの用いられ方があるが、概ね藁馬自身を神に捧げたり、供物などを引いて運ぶ役目のどちらかである。
るしにゃん王国では特に後者の役割を拡大し、兵站システムの輸送車の足として用いることにしたのである。
捧げ物と輸送の役目であるということを術式の根幹に組み込んでいるため、物理的にはもちろんのこと、魔法的にも攻撃能力は皆無だが、
輸送中の磨耗を防ぐ程度の防御力と、神様のものを奪おうとすれば天罰が下るのは当然ということから由来する、物資強奪などに対する防護能力が若干備えられている。
また、神様に捧げる馬、という側面は残るため、遠征から戻った際には武勲の奏上と共に感謝を込めて藁馬を焚き上げて神に捧げる儀式が執り行われる。
家に帰るまでが遠足、などとよく言うが、藁馬には、国を出て国に戻るまでが1つの魔法なのである。この強固な決まりがある故に、藁馬の操縦権を関係者以外が奪取して馬車ごとの強奪も難しくなっている。
さらにシンプルな術式構成を心がけられているため命令実行以外のアクションはできないが、馬は記憶力が高いという特性から、数は少ないが複数の命令を組み込んでおくことができる。
そのため先読みして行動命令と必要な魔力を入力しておくことで、御者が不在でも、魔力が尽きるか命令が完了するまでは動き続けることができる。
たとえば御者が休憩中でもしばらくなら動き続けるというわけだ。

この、通称“藁馬馬車”の完成によってるしにゃん王国の陸軍兵站システムの開発は大規模な躍進を果たし、
これが完成へのチェックメイトをかけることになったのである。

○行糧の研究1
輸送する物資の中心は、特に食品管理の形であった。しかし、これについては昔から一つのビジョンがあった。
古い伝説にあるとも言われている、エルフの行糧である。
非常に薄い焼き菓子の形であった。
荒挽きの粉で作られたそれは、外側が鳶色に焼け、中はクリーム色をしている。
味は菓子職人の焼くものに劣らず、包みの中にあって割らなければ何日も味が落ちない。
それを1つ食べれば、体格の良い大人でさえ一日の殆どを徒歩移動に費やせるほどの活力を得られるほどであるという・・。
更には旅に磨り減る心をも支える力さえあるとも言われたこの糧食は、
森国人の本来の兵站の形を示していると考えるものも多く、これの開発を夢見るものが絶えなかった。
だがその開発も未だ途上で、国家規模で取り扱うには今ある一般の食糧を管理する方法が必要であった。

そこで考えられたのが「お弁当スタイル」の開発である。
専門用語ではコンバットレーションと呼ばれるものであるが、るしにゃん王国ではあえて「お弁当」と呼んでいる。
別に争いが身近にあるという暗喩ではない。単に、この開発の大本にあるのが1個3マイルの<お弁当>だったからである。
この開発された「お弁当スタイル」は、食料生産地から発送される時点で一人前,一食分の食糧をあらかじめ取り分けてあるもので、 これにより食糧管理は重量管理から個数管理へと移行することになり、業務中の横領やどんぶり勘定といった過剰な消費の抑止に一役買うことになった。

また、こういった管理の効率化という側面だけではない。
食品を調理して詰めることで作られるお弁当は、あらかじめ手早く簡単に食べられるような工夫をかけることで、現地・戦場での食事時間を節約することができる。 また本来の<お弁当>は限られた空間の中に人間に必要な栄養分をつめる必要があり、食べる人に喜んでもらいたいという心を込めるものでもあることから、
「お弁当スタイル」の「お弁当」も、味と栄養バランス、摂取カロリー量や携帯性の検討が常に重ねられている。
もちろん兵員の士気確保のために温かいご飯を作るための食糧も用意しなくてはいけないが、これもまた1人前の量を推算しておくことで管理の効率化をはかることができる。

そして、長年の研究継続が望外の結果を産む。目標とするエルフの行糧に近づいた御弁当が開発されてきたのだ。 焼き菓子1枚という程度までは凝縮できていないが、サンドイッチ、ブリトー、おにぎり、寿司などの軽食の形を取る糧食が開発された。
行糧の品目に寿司があることが意外に思われるかもしれないが、寿司の原型は保存食であり、しっかりとした処理をすれば生寿司でも携行食として用いれるのだった。
これらは保存効果のあるホオノキの類の葉に包まれ、大規模な補給部隊を必要としない近距離の出征、少人数の任務向けに用いられている。

○びっくり真空術と加工作業場の設置

るしにゃんのお弁当システムには特筆すべき特徴がある。それは機械技術がないにもかかわらず「真空パック」を実現させていることがある。
もちろん、掃除機のような吸引機を用いているわけではない。もっと簡単な方法が発見されたのである。
真空パックとは、パックの中の空気が存在していないことである。すなわち、パックの中から空気を追い出すことができれば真空を作ることができる。
空気を追い出す最も身近な方法、それは水であった。

密封性の高い袋に加工食品を入れ、清潔な水をためた容器に、袋に水が入らないよう底からくぐらせる。
すると、袋は水の圧力に押され、中にある余分な空気を袋の外へ、水の上へと吐き出すのである。
あとは外から隙間を潰して残る空気を抜き、袋を取り出し、すぐに封をして外の水気をふき取れば完成である。
機械も魔法も使わない、ただの物理法則が為せる技であった。

この画期的な方法により「お弁当」の保存性・携帯性はますます向上し、るしにゃん王国の食糧保存技術に新たな光明が与えられることとなった。
なお、この画期的な方法を開発した技術者は、この原理を浴槽の中でたらいで遊んでいたときに閃いたらしい。
だがだからといってけっして「ヘウレーカ」と叫びながら全裸で走り回ったわけではないことを、彼の名誉のために蛇足ながら付記しておく。

そしてこの「お弁当」への加工を行う作業場については、
実は選定の必要なく、既にあるものを改良することですぐに始動にこぎつけることができた。
というのも、こちらの画像をごらんいただきたい。
こちらは「食料生産地」の紹介パンフレットにも掲載されているものであるが、 ここにあるように、収穫した小麦をパンにする、「収穫した食料を調理・加工する場所」は既に存在しているのである。

食糧生産に向いた地形のはずれにこの施設を再建・改築し、小麦以外の食材及び真空術を導入することで
陸軍兵站システムの「お弁当」作成場所として再起動がおこなわれることになった。
また戦時準備、戦時外では普通のお弁当を作る共同炊事場としても開放されている。

食糧生産に向いた地形を加工施設に用いることは生産量を落としかねないという指摘もあるが、
食料生産地・食糧倉庫に近い場所に設置することで輸送による鮮度低下を最低限に抑えた上で密封することができ、 またこれまでのスタイルを大きく変えることもなく、生活の現場に近いことでなじみ深さを与えるというメリットがあると考えられている。

○食糧以外の補給物資
また、食糧以外の補給物資も当然ながら整備が進められた。
兵站システムとは単なる食糧配給ではなく、軍隊が軍事行動を続けるための生命線であり、兵士の生活を守るものだからである。
弓兵の矢や弦、医師の医療物資、魔法使いのための精進潔斎の用意はるしにゃん王国の軍備としては当然なのだが、 特に医療については医療テントなどや、数国分の用意が入念になされている。
あまり前線に立つことのないるしにゃん王国にしては余りにも用意が周到であるが、
これは低物理域への出撃においてるしにゃん王国の兵站システムが利用される場合を想定してのものである。
なぜなら、陸軍兵站システムの整備を進めている国はほとんどいない。特に、低物理域中心の兵站システムはNWでも初めてである。
そのため、低物理域方面への遠征のために他国も兵站システムが必要な場合に備え、数国の健康を支えられるレベルの設備を用意しているのだ。
また、衛生面の管理として、輸送可能な入浴施設とサウナテント、兵士のメンタルを支える卓上遊具や嗜好品なども用意されている。
輸送に多少の難があっても質でそれを補うよう、非常に充実したラインナップと管理がされているのだった。

○補給所の設立
こうして兵站システムの基礎が確立されたことにより、最終段階として補給所が作られることになった。
場所の選定として、国外への遠征の際に必ず通る、森を抜けたところに広がる草原,国外へと通じる石畳の道路の途中が選択された。
森の中に輸送機を着陸・停車させるスペースがなく、また加工場以上の施設を食糧生産に向いた地形や食料生産地に設置することは 非常に非効率的であったことが選定会議で挙げられた説得材料だったのだが、 国外への道中に配することはより補給効率を高めることになる正解の選択肢であるといえよう。
ただ、敵に発見され利用されることがないよう、建物自体はすぐ近くの森に隠されている。
また敵からの隠蔽性を上げているのは、大々的な輸送機のなさ、また利用する輸送機に応じて描き直されるトラックであった。
補給所内ではトラック(乗り物ではない)を地面・床に引いて種類や送り先などに応じた物資の分類を行っており、 管理体制の改善や利用する輸送機に応じてトラックを引きなおすことで柔軟かつ最適な管理を可能にしているのだが、 さらには施設外に引いたトラックはすぐに消すことができるため、平常時はこれによって敵から補給所の場所を隠すことができるようになっている。

こうして完成に至った陸軍兵站システムは、その食糧管理技術や輸送用の木箱についての民間転用が行われることになった。 特に「お弁当」については非常食として戦闘糧食とは別に生産され、寮内の非常用倉庫などへ有事の供えとして各地に備蓄されている。 藁馬馬車については性能と引き換えに制限が厳しく、転用は難しいと思われていたが、性能を抑える代わりに、炊き上げまでの期間などの制限を延ばすことで、国内輸送手段の1つとしても使えるようにする研究が進んでいる。
軍事技術の転用というと非常に危険な匂いがするが、今回の場合はつまるところ食文化・運輸産業の向上ということであり、るしにゃん王国では歓迎するべき事といえよう。






written by 緋乃江戌人,クレール / illustrated by ぷーとら(小麦畑の背景),クレール(テキスト内の図)