登録アイドレス  個人着用アイドレス 12

「悲劇は、一度で十分だ」


「もう、逃げたくない。」


「だから、そこまでだ。あしきゆめよ。」





……竜が空を飛ぶときは、夜が来る合図である。
それはネコが「寝子」である時の終わり。日溜まりでの微睡みの終わり。日常の終わり。寒い風と眠れぬ夕べが告げる、世界の闇のはじまり。

竜が飛ぶ日はいずれ来る。
故にすべての猫よ。日々牙を磨き爪を研げ。
努々忘れることなかれ。いずれ来る闇のことを。
我等は猫。何処とも知らぬ闇より潜み来たる終わりから、世界を守るもの。
竜が世界の最後の守りならば、我等は最初の守り。日常の守り。
すべては未だ終わらぬと、故に未だ戦ならずとも抗い続けるものであると。

竜が飛んだならばそれは戦の合図である。激しい戦の合図である。
翼が巻き起こす風は世界を揺らし、吹き散らす炎は命を焼くであろう。
それは竜の風である。
我等が王は聡明なお方。
竜の風が吹いたならば、夜に我等を呼ぶであろう。
戦に備えよ。武楽器を取れ、と。

王が啼いたならば、我等は果てへと旅立たねばならぬ。
一度は棄てた武楽器を、世界の果てから掘り起こさねばならぬ。
そして、誇りと共に名乗るのだ。
我等は猫にして猫の誇り。最後の戦に備えて集った猫。
竜と轡を並べ、時に挑み、それを下すもの。すなわち「竜猫」であると。









高位森国人+竜猫+猫神+世界忍者







竜猫とは、竜を狩る猫ではない。
猫の名を冠せど、猫妖精のように生物として猫をまねるのではなく、
猫神使いの一人、人の形質を保ち猫と共に生きているのが彼らである。

竜猫とは、竜と猫のことである。
しかし竜とはリザードマンのように竜の鱗を持つ亜人というわけではない。
それは、猫神使いの中から生まれでる、人々の安らかな夜を守るために剣をとるもの、
人と猫がともに戦う伝説の中に帰ることを選んだもののことである。

猫とは、猫神使いの肩に乗せた猫神族から生まれでる、彼らのパートナーのことである。
言い伝えそのままに、毛がふかふかでニャーとなく戦神の力を受け継いだ猫たちであり、
猫の王ブータのように、猫の身には大きすぎる巨大剣をもってともに戦場へと赴く。

森国人という、やせぎすな、剣を振るうには最も不利な条件を乗り越えて。
彼らは世界を守るため、よき未来を取り戻すため、猫とともに夜の闇に挑むのである。



○よみがえる竜猫
///その始まり、竜猫計画///
次々と現れた新たなる弓兵科の登場とその活躍によって、低物理域方面での中・遠距離戦闘の主戦力としての地位を獲得しつついたるしにゃんの兵士たちであったが、
そこにはひとつの根本的に解決していない問題があった。
それは、あくまでそれら弓兵部隊の性能が発揮されるのが「中・遠距離に存在する敵」だったということだ。
それよりも近い距離から行われる攻撃(*1)には完全に為す術がないのである。
露払い、或いは盾となる部隊が遅かれ早かれ必要となるのは間違いがない。
しかし同時にそれらは、森国人が最も苦手とする分野であることもまた事実であった。

深き森を自在に行き来する森の民であり、古い時代の知識の継承者であり、その結晶である魔術に深い親和性を持つ民。それが森国の民である。
特にるしにゃんの大地はよく言えば起伏に富んだ、つまり平地と呼べるものが少なく、あっても草木が生い茂り、常人には踏破の難しい土地柄である。
それらを平地の如く行く事の出来る敏捷性と、自らの身体ではなく積み重ねた経験によって切り抜ける知識。それこそが長らく彼らの誇りであった。
もうひとつの特徴である美しさ――やせぎすの、言い換えれば優美さをも感じさせる線の細い体つきや長い髪といった特徴はそれらの裏付けから来る自信の現れに他ならない。
それ故に弱点を補強するのではなく、それを他国の兵力によって補う事で強化を図ってきた――
というのが、これまでのるしにゃんでの方針であり、それは実質、成功してもいたのである。
よって、案として一度は検討され、その取得の運命がイグドラシルに現れていながらも、長らくこの計画が手を付けられる事はなかった。
ところが、そうした状況に一石を投じる事態が立て続けに起こる。
ひとつは国際的犯罪者であるテロリスト、クーリンガンの登場とそれによる被害。
そしてもうひとつは、無名騎士藩国での戦争とそれによる戦傷被害である。

クーリンガンのテロの特徴には「絶技による接近」があった。
何処にでも無制限で登場できるその手口によって、これまでに言われていた弓兵たちの相対距離による有利性(*2)は、ほぼ無効化されたに等しかった。
そして無名での戦争。
この結果によって、同一部隊の酷使による精神的疲労――いわゆる医療の進歩による治療の早期化と、
それによる過酷な戦線への「押し戻し」が、それを行った兵士のみならず全体に多大な悪影響を及ぼすという事実が、
悲惨な状況に陥った兵士たちの姿と共に白日の下に晒されることとなったのである。
特に、部隊のうち半数近くが入院という措置となったるしにゃんでは、この事実は重く受け止められた。
これらの悲劇を繰り返さない為に、取り得る手段は何か。
もっとも理想的な対処は「押し戻し」をする必要がない状態を保つことである。
それには敵の数を減らす、あるいは味方の数を増やせばよい。

ここに至って、藩王るしふぁは決断を行う。
それはすなわち自ら近接戦闘を行うことを前提とした部隊の設立と、その為の武装の開発であった。


///部隊設立///
計画の再始動を宣言した直後、森の王宮にて行われた軍の方針会議にひとつの意見書が提出された。
執筆者は星見司を中心とした王宮内研究チーム――かつての弓兵部隊の強化に貢献したメンバーを中心として発足した調査研究担当者たちである。
彼らは半凍結状態となった後にも、業務の合間を縫ってリサーチを続けていたのであった。
彼らが取り組んでいたのは、各自の伝手を最大限に利用して戦闘部隊――特に接近距離の戦闘を得意とする部隊の資料を片っ端から取り寄せることであった。
他国の技術を取り入れる為、というのが表向きの理由であったが、
彼らが真実求めていたものはそれらの資料にある技術でも制度でもない。部隊の明確なイメージである。

既に弓兵部隊の強化を手掛け、成功していた彼らには、強い確信があった。
最初の段階で理想と現実がかけ離れていても、明確なイメージとそれらの差を埋める為の努力をし続ければ無理ではなくなるものなのだ、と。
とはいえ、そうした努力も方向性を見失えばただの徒労である。
特に弓兵の時とは異なり、元々不向きである分野を開拓し、軍の一分野として根付かせようというのだ。慎重にも慎重を期す必要があった。
時に藩王の親書によって依頼し、または各自の伝手を頼りにして資料を集め、
国内の記録や歴史書に限らず広く共和国全土、あるいは帝國の書物までをも紐解き、分析し、データをこつこつと蓄積し続けること数ヶ月。

出された結論は、他の面々が想定していたものとは異なるものだった。遠く帝國に存在する拳法家たちのそれを参考にしようというのである。
修行で鍛えられた強靱な肉体を背景にしてはいるものの、独自の鍛錬と歩法とをベースとした彼らの能力は、
与えられた攻撃を受け流す事によって自身のダメージを最低限度に抑える技術の集大成であるといえる。
その能力の基礎となるのは、先を読む為の知識と、何より先手を取る為の敏捷性だ。森を征く森国人の立場に通じるものである―――

ただし、これらをそのまま移植することは、それぞれの持ち味を殺す事にも繋がる。
故に、既に国に存在するもの――るしにゃんの場合には忍者の隠れ里で伝わっている白兵技術と融合させるが妥当と考えられる、というのが彼らの出した結論であった。
―――これが忍者たち、特に古老と呼ばれる上層部の、これまでに何度もあった懸念が、再び示された(*3)。
技術の改革は不要とする彼らの強硬な態度にあわや計画そのものが頓挫するかと思われた矢先、二人の仲介者が現れる。
一人は魔法弓部隊――俗称「魔法弓手」の長。そしてもう一人は、形式上王宮と神殿に属する猫神の長であった。
言い方を変えれば、彼らは上層部の新人達である。

前者は提言による変化を受け入れた結果、成功を収めた立場から彼らを説得し、
後者は技術的な必要性から大幅な改革ではなく実験部隊としての設立を提案する。
これらによって、上層部はその懸念の強さに反し、意外なほど速やかに新しい提案を受け入れた。(それでも完成がT14になるまで遅れるほど時間はかかったが)
部隊は当初の忍者改革案から、猫神部隊の能力強化という方向に大きくその性質を変えつつも、そのコンセプトを守ることとなったのである。

筆者の思うに、実際のところるしにゃん王国の忍術というものは世界忍者の時点で完成を迎えており、
伸びしろがほぼ皆無であることを上層部が一番正確に認識していたのではないだろうか。
ゆえに、その先は貴族の姿を得て権力社会や経済に入りこむか、それとも忍術を武術に昇華して武人の道を進むかの道を選ぶしかないことも痛感していたのだろう。
だからこそ、「白兵技術の強化の必要」を示されることに敏感になっていたのではないだろうか。
結果的に忍者自身ではなく忍者の新しい形の一つである「猫神」を鍛え上げる形になったが、
先に懸念を示すことで、改めて忍びの里を核とする,忍者の系譜に始まる弓使い,猫神使いの統制を再確認する意味があったのだろう。


///誓いと願い///
新たな部隊による模索が始まったその日、猫神たちが研究チームに提供したものがある。
それは神殿の奥で密かに伝えられた古文書であった。
古代より神殿にのみ伝えられてきた特殊な白兵術・格闘術を記したそれらには、奇妙な挿絵が入れられていた。
挿絵それ自体は、神殿の壁画などにモチーフとしてよく用いられているもの――祭司たちの間では「猫の戦場」と呼ばれている光景であろうと思われた。
彼らの背や翻る旗等に古いるしにゃんの紋章があったからである。しかし、彼らには現在の忍者たち、あるいは猫神たちと明らかに異なる点があった。
身に帯びる剣が巨大すぎたのであった。

この挿絵には「竜猫之図」とある。
竜猫。
猫神たちの話と現存するいくつかの壁画や覚え書き等の数少ない資料(*4)によれば、
それは自らの爪と青く輝く武楽器を口に、戦場を駆け抜ける猫たちのことであるという。
彼らは自らを世界の最初の護り手と称し、時としてあらゆる種の中で最強を謳われる竜種にも果敢に挑み、下すという。
その力と、何よりも自ら世界を守ろうと強く願う意志から他ならぬ敵対者であった竜たちにもその名を冠し、名乗る事を許されているのである、と(*5)。

これを持ち出した事を問う研究チームの面々に、彼らは答えた。これは誓いであると。
祖先の栄光を、現代の自分たちが名乗る事は恥ずべき事であるかもしれぬ。過去は過去。今のこの身は戦場に立つにはあまりにも弱すぎ、目前の国難にも無力であると。しかし。
「帝國で竜が国を焼いたと聞いた時、我々は思ったのです。我々もまた変わらなければならないのだと――この国を、世界を守る為には竜にも挑める力が必要ではないかと」
その日から、実験部隊には「竜猫隊」の名前が与えられることになる。
古文書を管理している祭司たちの協力もあって、古文書の武術と他国の各種体術とを組み合わせる作業は竜猫隊へと委ねられた。
作業と共に、訓練という名の試行錯誤が開始されるまでにそう時間はかからなかった。

その一方で研究チームは隠れ里の鍛冶師たちと共に、その装備を生み出す作業に全力を注いでいた。
竜猫隊とその協力者たちによって明らかにされた古文書、そこに記された武術の内容が非常に特殊なもの
――前述の挿絵通りの巨大剣を攻防に活用しきる事を前提としたものだったからである(*6)。

驚くべき事に、竜猫たちは剣を使って攻撃を「切る」のではない。技術によって受け流すのだ。それは弓矢の他や、魔術の類であっても例外ではない。
そして、高エネルギーの塊ともいえる詠唱魔術を一度なりとも受ける剣となれば、その素材は通常の刀剣と同じという訳にもいかない。
あまり知られていない事実ではあるが、るしにゃんは良質な鋼の取れる土地柄である。
そして、その鋼を鍛え武具とする技術はかの「大災厄」を経てもなお、衰えず存在していた。他ならぬ、弓兵たちの武器――その先端の鏃を作る技術として。
彼らの大半は元々忍者たちの携える刀剣を専門に作っていた者たちである。
技術を要する職故に日々に不満はないが、野望はあった。――現在、武術のひとつとして存続しつつも、携える武器としては廃れかけた刀。それを再興させたいと誰もが望んでいたのである。
―――そこに研究チーム、否、竜猫隊からの依頼が来た。
久々の大仕事に、鍛冶師たちは奮起した。故に正式な王命を出すよりも先に彼らは動き始める。

仕様書とは名ばかりの、希望要綱だけを書き連ねた無謀なしろものを前に、真剣に名うての刀匠たちが論議を始め、その構造を、材質を、製法を語り合った。
白熱した論争の後に玉鋼が足りぬと判れば製鉄場に火が点され、鞴が風を送って炉を暖めた。
刀剣専用であるが故に封じられていた大槌が、鋏が、その他使われずに在ったあらゆる道具が恭しさを以って保管されていた蔵から運び出され、昔日の姿を取り戻す。
―――今の己等の持てる全ての技術を持って、竜をも打ち破る剣を作るべし。
誰が言い出す訳でもない合い言葉の下にやがて槌打つ響きが里に広がり、久しく起こる事のなかった活気が満ちる。
やがて試行錯誤の末に一振りが完成する度に、それは人知れず修行を続ける竜猫隊のところに届けられ武術の鍛錬へと使われる一方、
記述通りの性能を持つかどうかのテストが行われるようになっていった。

それにつられるようにして、今度は装備を作っていた武具職人たちが動き出した。
彼らが研究チームの下に持ち込んだのは、一揃いの武具であった。
武術の鍛錬風景と弓兵たちの武装を参考にして生み出されたそれらは絹の衣服に重ねて身に着けることができ、剣を振るう為の上半身だけでなく下半身、特に動きの基本となる足の保護を重視して作り出されたものであった。
武具としては既に完成された、他国へ持ち出せば美術品のように賞賛されるであろうそれを、何故研究チームへと託したのか?
当然といえば当然の疑問に、彼等は言う。――我々では「これ」を完成できない。実戦の為の仕上げとして、魔術を刻むことは出来ない、と。
他のものたちのように魔術に対する怒りや恐怖を捨てた訳ではない。しかし同時に彼らは痛いほど理解していたのである
――魔術を用いなければ、本当の意味でこれを完成させ、竜を名乗るほどの力を与えることは出来ないのだ、と。

鍛冶師と武具職人。
形こそ異なるものの、そこにはこの国の平和をひたすらに願う心と、その為に己の持つ技量のすべてを尽くそうとする意志があった。
戦う場所は異なれど願うところは同じ――彼らは自らの職能によってそれを示そうとしたのである。

ほどなくして、魔術を刻み込まれた専用武具は完成し――そして竜猫隊へと渡されることとなる。それとほぼ同時に、巨大な剣もまた完成した。
耐久実験と仕様変更を何度となく繰り返し続けた結果、完成までには一年近い歳月が過ぎていた。しかし、そのあまりに真剣な姿に誰もそれを咎めることはなかったという。
そしてそれとほぼ同じ時間を費やされた鍛錬の結果、それらを完璧に使いこなせる者もまた竜猫隊以外には存在しなくなっていたのである―――

*1
 報告書によると、以下のような例が出ている。
1)戦術としての奇策による接近
 ・伏兵の奇襲、あるいは夜闇に乗じて現れる暗殺者など
2)個人の特殊能力(含む絶技)による接近
・「実はそこにいた」に代表される同時存在を可能とする、再現不可能な技術(いわゆる絶技)によるもの
・「ドラゴンスレイヤー」などの職業に代表される、白兵戦闘以外の攻撃を無効とする特殊な体術および技術による攻撃無効化によるもの
・高精度能力を有するテレポーターによるもの
3)高テックレベル技術及びTLOによる接近
・「転送術師」およびその転送技術による空間歪曲によるもの

*2
 弓兵部隊の攻撃可能範囲は最短でも中距離程度である。
 これにより個人行動の場合でも敵対する存在が現れた場合、距離による優位性があるので逃げる事が出来、問題がないと思われていた。

*3
 後に関係者から語られた事情によれば、彼らは秩序の崩壊を恐れていたという。
 古来、忍者とその隠れ里は魔法使いの二つの星見塔と並び、るしにゃんの軍事方面を支える教育、訓練施設として機能してきた歴史がある。しかし現状では知識の要たる星見塔は廃れ、隠れ里もその立場を既に弓兵にほぼ奪われている。またネコリスの友やトラリスといった古代の戦闘技術が復興しつつあることなどから、これまでの忍者という枠組みによって作ってきた軍の秩序そのものが失われ、既にニューワールド内の数国に見られるように力が野放しになり、本来守るべき国民にそれらが無秩序に振るわれることを危惧していたのであった。
 とはいえ哀しいかな、るしにゃんの場合、頻発するなりそこないという特殊な内的要因の結果として国民にそれらが向けられた事例はほとんどない――というのもまた事実ではあるのだが。

*4
 猫神たちは形式上は神殿の護り手であり、そこに仕える祭司たちに準じる立場にある。それ故に彼らが知る事柄には外部には秘するべきとされる知識も多く、外部に関わる必要最低限の知識以外は伝統的に口伝でのみ継承され、伝えられていく事がほとんどである。

*5
 竜に挑む故に竜猫とされるとはいえ、これは敵対関係ではないとされている。
 竜と戦うのは互いの種により立場が違う為のことであり、竜と猫との関係そのものは良好であり、戦いにおいては好敵手のような関係にある。
 事実、古謡のひとつには共に戦いに挑み、その健闘を讃える一幕もある。

*6
 以下に古文書の記述(抜粋・現代語訳)を挙げる。
「…… つまり、矢や魔術についてはこれを受け流すことを基本とする。魔術は避けられない為、剣を身代わりとして用いる。これは雷を大樹が引き寄せるのとよく似た理屈である…(中略)…剣は武具であるが同時に盾であり、鎧である。爪を持たない人が猫として相応しく戦う為には身に帯びるこれを猫の爪、犬の牙、猛禽の嘴と同様に扱えるようにならねばならない ……」

○我が竜を見よ
竜猫の称号を得た猫神たちは、それぞれ個性の違いはあれどある剣術をふるう。
その構えは二つあり、一般に守りを固めるものと、突撃して攻めるものである。前者を竜の構え、後者を猫の構えと一般には呼んでおり、竜と猫の名の由来は構えがそのように見えることに由来している。

守りを固める構えは、柄を上に刃を下に、剣の面を敵に見せるように斜めに構える。
その姿があたかも竜がその手を構えるようで、あるいは首をもたげているようにも見えるために、竜の構えと呼ばれている。

これは大剣を守りの「竜鱗・竜爪」と見立て、やせぎすの体のほぼ全てを大剣の影に隠し、
半身に構えて重心を落とすことで攻撃を受け止め、いなすものである。
さらに敵の攻撃に対して直角ではなく斜めに構えることは攻撃の衝撃を半分近く反らす効果を得ており、防御効率を大きく向上させている。

熟練すれば、受け止めざるを得ない衝撃を遠心力によって突撃力に変換することも不可能ではないとも言われている。
竜猫の力に加え敵の攻撃の威力をも乗せたカウンター攻撃は、相手の火力が強ければ強いほどに力を発揮し、
攻撃時に生まれる虚を突き貫く、敵の刃を敵に返す水鏡の技と言えよう。

突撃して攻める構えは、遠心力を重ねて振りぬくために大剣を後ろにおき、反対側の肩を前に出すように突進する。
この突撃の際は被弾面積を抑えるため、重心は落とせるだけ落とし、森国人のしなやかさと忍びの技を活かしたまるで地をはうように高速突撃をするのだが、
それがまるで猫が生きる糧を得るための狩りのように見えるため、猫の構えと呼ばれている。

しかし鎧兜を持たぬ世界忍者の装束のみでの前陣は非常に危険である。
そのために大剣が作られ、「守りの竜鱗」の見たてがされてきた。本来の大剣の運用想定は、竜の構えのみだったのである
しかし攻撃をするには守りの構えを解かなくてはならぬ矛盾があり、睨み合いの場、相手が遠距離にあって反撃が届かぬときはどうしても攻めに転じなくてはならない。

そのために後から開発されたのがこの猫の構えであり、、装甲という形の防御を完全放棄し、大剣を後方に配して空気抵抗を減らすことで視界と敏捷性を大きく確保した。
そして大剣の重量をたくみに動かしときには足場とする激しい高速移動の末に叩き込む遠心力を最大限に乗せた一撃は、
「猫の爪牙」のように、城砦の屋根を跳び渡り、また地を伝う烈火のごとき技である。

しかし、二つの構えは相反するものである。
重厚なる大剣は銃弾をも防ぐ竜鱗となりうるが、地を駆け抜けて反撃の一撃を放つには重すぎて猫の爪牙たりえず、
羽のように軽い剣は軽快な動作と高速の抜き打ちを可能にする爪牙となりうるが、敵の攻撃を防ぐには脆すぎて竜鱗たりえない。
そこで、それぞれの構えに合わせた2種類の剣が実戦用として作られることとなった。
1本は鋼や樹脂などを幾重にも重ねることで「敵に叩きつける装甲」「柄のついた大盾」とも形容すべき、「守りの竜剣」。
もう1本はオールのような木剣をベースとして、縁に金属の刃をとりつけ樹木を切り裂く紙のように高速の取り回しが可能になることを目指した「攻めの猫剣」である。

本来ならば「攻めの猫剣」のベースである木剣は忍びの里での修練用の武器であり、「守りの竜剣」だけが竜猫の主兵装となることを想定して作られたもの。
しかし突撃のために亜流として開発された「猫の構え」のために、修練用の武器が主武器として換装されることになったのである。

そして、竜猫たちは「攻めの猫」「守りの竜」の修練を重ねた上で、最終的には得意などちらかのスタイルと武器を選んで戦場へと臨んで行く。
しかし驚くことに、熟練者の中の熟練者、いわゆる達人と呼ばれる一部の竜猫は、両方の武器を選んで戦場に赴くという。
曰く、「守りの竜の構え」はカウンター狙いと後衛防御のための完璧な盾であるわけで、2本の剣を持とうが1本の剣を持とうが機動力には変わりがない、
攻めの猫の構えでは竜の剣をその場に放棄しての高速突撃をすればよいのだ、と言うのである。
守るだけでなく戦いを終わらせるために。攻撃機会の確保に努めるという点でこの考えは非常に理に適っている。
守りと攻めの両方を持つ二刀流こそ、猫と対になる竜の名を担う者の、真の戦闘スタイルなのかもしれない……。

○伝説の復活
夜が来る。
夜を守るのは猫神族の役目だった。
そして、子供たちがおやすみなさいをした後には、竜が飛ぶのだった。

T16のはじまったあくる夜、森の王宮から飛び出した影があった。
神殿や東国にあるという瓦ぶきの城の屋根すらも飛び越えかねない速度で夜の闇を走り抜ける影は、二つある。

一つは、木々を伝って宙を駆ける絹の服装。黒を基調に染め上げられた無駄のない衣服は、
10以上も昔のターンからNWに認められてきた、ドイツをモチーフとする忍者装束、ゲルマン忍者の衣服である。
防具らしいものは頭環の代わりに額当てを身につけているだけだ。
とはいえ額当ては最近の忍者達の流行りで、身に着けるオシャレであるため、防御力はさほど期待できない。
しかし、火線に晒されれば裸同然の防具よりも目を引くものがある。
それは、人の丈とも変わらない、巨大剣である。
殆どを木でつくられたそれは、木刀というよりは木の棒、木の棒というよりはオールと言ってもいい。
それを背負う、やせぎすの男が、木々を駆け抜けていた。

もう一つは、地上の落葉を蹴って走る尻尾を持つもの。つややかな毛並を纏い、駆ける姿でなお偉そうな威厳をなお保つそれは、
るしにゃん王国に名高い、人間の猫神使いとパートナー関係を結ぶ、猫神族の1柱であった。
しかし、その姿は「肩に乗せた猫」とするにはやや身体が大きい。
二つの影は上と下とで離れていたが、やがて距離を詰め始める。声がきこえてきた。

「……戦場はこの先であってる?」
「夜目も利かぬ鈍感な人間は黙って儂の道案内に従うがいい。」
「世界忍者は夜間戦闘ができるんだ。それに、長い耳で音はよく聞こえる。」
「それはよかったな。じゃあ急げ。」
「今日のためにダイエットして脱デブ猫してよかったね。」
「たわけ、ぽっちゃり体系でも十分早いわ。」

一瞬、悪そうな目つきでにらむ一人。そしらぬ顔の一匹。
二つの影はさらに速度を上げると、目指す先である、森の外れへ一直線に向かった。

/*/

深い森を抜けようとするころ、二つの影は探し求める姿を見つけた。
「……見えているな。挟み込むように前に出るぞ。」
「OK。じゃぁ僕は右からいく。」
「にゃー。」

二つの影は左右に分かれると、迂回する軌道をとって森を抜けた。
月光に晒され、光の粒を散らすように煌めく長い髪。忍者の男は背に負う大剣に手をかけながら、声をあげた。

「そこまでだ、あしきゆめたちよ。」
決意と覚悟が乗り、悪そうなを越えて鷹のようになった目は、草原を渡り、森へ向かおうとする不死者の群れを見つめていた。
「この森に入ることは、僕が断じて許さない。」
「昼寝を邪魔するものは容赦せん。小僧、行くぞ!猫突撃!」
「おお!」

それは、伝説のような戦いであった。
猫神族の口元にどこからともなく現れた猫用の巨大剣は、左翼から不死者を切り裂き、
竜猫の青年は振り下ろす大剣で右翼から群れを切り崩す。
たった二つの儚い光の前に圧倒的に広がる闇の群れ。あたかも世界の終わりを示すようなその後継だが、それでも光は懸命に闇を押しとどめていた。

『フフフ、人中の竜……いえ、いまだかわいいトカゲ、といったところね。』
不意に、身体を砕かれ不死者であることをやめた死体の口から人の声があがった。
「!?」「落ち着け、ただのメッセージだ。気を抜くな!」
『あらあら、猫ちゃんもいるのね。ご苦労様。』
「誰だ!」
『初めましてぼうや。私はこの不死者たちの召喚者。私の邪魔をしないでくれるかしら?』
「断る!るしにゃんの森を不死者の王国になんかさせてたまるか!」
怒気をはらむ声と共に2閃3閃、不死者はさらに薙ぎ払われていく。
『その威勢……嫌いじゃないわ。ふふ、夜明けまでせいぜい頑張ることね。』
楽しそうな余韻を残しながら、人の声がやむ。
「くそっ、負けるもんか!」
明らかに力みすぎな振りかぶりから剣を横なぐ青年。
重心がずれて、一瞬行動のテンポが遅れる。大軍相手には致命的な一瞬。

捌ききれない攻撃が来る刹那、青年のではない大剣が目前の腕を薙ぎ払った。
「さっきから焦りすぎだ。勇気と無謀を間違えるな。」
剣で掃うと同時に猫神族が着地して青年に苦言を呈する。
「……ごめん。」
青年には、返す言葉がなかった。
「猫の構えをとれ。教わった構えもせずに攻撃に出るなど十年早い。うまく剣をつかえ。」
「わ、わかった。」
改めて青年は、ずっと学び、鍛えてきた攻めの構えを取った。猫神族も合わせるように剣を持ち直した。
再び襲い掛かろうとする不死者の群れを前に、猫神族は声をかける。
「たしかにお前はまだ竜にもなれていないかもしれん。
 わしとて偉大なるブータニアス卿らと比べれば乳離れした子猫も同然よ。
 だが、偉大なる方々の持ちえぬものを我らはもっている。…わかるな?」
きっと最後の一文は何度も繰り返されてきた問答なのだろう。青年は迷いもなく答えた。
「僕達は成長する。未来をみることができる。」
平静を取り戻しつつある青年に満足するように、猫はうなずいた。
「そうだ。膝を屈するな、目を閉じるな、前を向いて歩け。丸まって眠るのは老いてからでもできる。」

そして、再突撃が始まった。
教えられた構えから繰り出される一撃は、遠心力と重心の移動を最大限に活かし、順番に、そして確実に致命傷を与えていく。
一撃の合間を縫うように、青年はつぶやいた。
「諦めなければいつか夜明けは訪れる。」

その言葉から何事かを感じ取り、猫神族は合わせるように鳴いた。
「今宵の絶望に満ちた夜もやがては明けるだろう。」

対多数戦の鉄則は機動力。それを守るように青年は一撃を加えるごとに前転し、あるいは半歩横にずれて別の方向に大剣を薙ぐ。
「うん。それこそは森の循環。絶対不変の自然法則」

猫神族の歩みは大剣をパートナーに舞う踊りのようだった。まるで、戦いと芸事が1つであったころのように。
「我らは絶技を使わねど、この身技にて安らかな眠りを守ろう」

青年の裂帛の気合いで踏み込む足は、胸打つ手の代わりに大地を鳴らした。
「それこそは世界の守り、守りの守り、守りの守りの守り。それはここに。このなかに」

互いの一歩で立ち位置を何度も入れ替え、螺旋を描くように一人と一匹は戦場を渡り歩く。
それはまるで小さな竜巻にも似て、襲い掛かる不死者の群れの悉くを駆逐していった。
勇気を紡ぐように彼らは詠い、何度も剣を振りかぶる。

そして。1刻に近い時を経て、最後の1体が倒される。
今や、動くものは竜猫しかいない。
土とケガにまみれ、剣を杖に、肩で息をする青年。
その隣で、猫神族は、朗々と、声をあげた。
「生死の境界を違えし闇のものどもよ、退くがいい。
 夜明けは来たれり。お前達の敵が、今ここに帰ったぞ。」

彼らは気がついていた。この局所的な勝利だけでは、森を守ることはできないと。
今や不死者の流入は止まらない。彼らは、たった3ケタに上るうちの数部隊を退けただけなのだ。
それでもいつか第七世界人が気づいて、共和と帝国から結集させる圧倒的な力で全てを助けてくれるまでの時間稼ぎにはなる。
でも、だからこそ、彼らは声を上げたのだ。
これ以上、好き勝手にはさせないという反撃の意志を示すために。

「……今は小さいかもしれないけれど。いつかきっと。」
「生き延びれば、いい夜明けがみられるときがあるだろう。そのときまでの辛抱だ」
「うん。 ・・・帰ろう。家に。」

そうして一人と一匹は、誰にも気づかれない戦果を上げて、家路についた。
竜と猫は皆の眠る夜を駆けるがゆえに、彼らの戦いを知る者は多くない。
だが、彼らの戦いは、確実に夜の平和を守っているのだった。


作業者リスト
イラスト:七海
テキスト:ノーマ・リー,クレール
ページデザイン:クレール


要点・周辺環境
 高位森国人長い耳,長い髪(男女とも),やせぎす,絹の服装,頭環
森の王宮
 竜猫偉そう,巨大剣,デブ猫
戦場
 猫神肩に乗せた猫
神殿
 世界忍者世界の国をモチーフにした忍者装束(例:イギリス忍者),尻尾,悪そうな目
城の屋根

**体 格筋 力耐久力外 見敏 捷器 用感 覚知 識幸 運
高位森国人 +100+2+20+1+20
竜猫 +9+9+900000+7
猫神 +1+1+1+3+20+1+1+6
世界忍者 -100+1+2-1+2-10
HQボーナス         +1
合計 10101066-14213+1

  #猫神よりHQを継承しています。

特殊 総消費燃料:6万t
 *高位森国人は根源力25000以下は着用できない。
 *高位森国人は一般行為判定を伴うイベントに出るたびに食料1万tを消費する。
 *世界忍者は夜間戦闘行為ができ、この時、攻撃、防御、移動判定は評価+2され、燃料は必ず−2万tされる。
 *世界忍者は白兵戦行為ができ、この時、攻撃、防御、移動判定は評価+2され、燃料は必ず−2万tされる。
 *世界忍者は侵入行為ができ、侵入行為(判定:幸運)時、判定は評価+3される。
 *世界忍者は施設破壊ができ、このとき施設の効果は無視される。
 *猫神は同調行為ができ、この時、同調判定(外見)の判定は評価+2され、燃料は必ず−1万tされる。この行為はルール上75%制限を無視して発動する。
 *猫神は治療行為ができ、この時、治療の判定は評価+3され、燃料は必ず−1万tされる。
 *猫神は猫の言葉が分る。人の形をした猫の言葉も分る。
 *猫神のアタックランク = ARは12として扱う。
 *竜猫は白兵戦闘行為が出来、この時、攻撃、防御、移動判定は評価+4される。
 *竜猫は一日の半分をごろんちょしてなでなでしてもらって日向で寝転んでないと戦闘に参加できない。この三食昼寝つきの環境を維持するため以外に戦うことは出来ない。

次のアイドレス
 高位森国人賢者(職業),動物使い(職業),弓兵(職業),藩王(特別職業)
 竜猫カエサルの友ブータニアス(ACE),剣神(職業),昼寝の大流行(強制イベント),猫のマーチ(強制イベント)
 猫神*AD … 竜猫(職業),伝説猫(職業),ヌマ(ACE),01ネコリス(職業)
 世界忍者世界貴族(職業),エミリオ・スタンベルク(ACE),世界侍(職業)