るしねこ とは

 るしねこ。彼らの本来の姿は「猫」である。
 四つ足で、三角耳で、毛がふっかふかで、長い尻尾があって、鳴き声がニャーもしくは喉を鳴らしてゴロゴロなあれである。ただしそんじょそこらの猫がなるものではない。
 その選定基準も非常にシンプルである。
 簡単に言えば、変化の術――人化の術とも呼ばれるそれを会得しており、ほぼ完全な人型に「化けられる」事。それを満たしていればどんな年齢でもそう呼ばれることになる。ちなみに耳と尻尾が変わらないのはご愛敬だ(ちなみに感情によって耳や尻尾が激しく動きを見せても、見ないフリをするのがるしにゃん的大人のマナーである)。
 これらは種族的な特殊技術と呼べるものだが、面白いことに系統として同じである筈の魔術の類はというと、扱えない事の方が多い。あるいは(平均的に見ても)下手だとされている。一説によればこれは猫と人間の感覚の隔たりが原因であり、詠唱などで対象を確認する時に混乱するからだとも言われている。
 ただしあくまでも「全般的な傾向」であり、個々の猫での個体差、あるいは環境差が激しいので一概には言えない。
 完全な人型にまで化けられない猫はるしねことは呼ばれない。
 中でも、国の王城などに仕えてくれる者たちを伝統的に「猫士」と呼んできた。


 彼ら猫がそうまでして化けるのは、好きな人間に寄り添う為だという。
 全体の傾向として人間に好意は抱いているものの、実際に猫のまま立って歩いて人間の真似をするのは、四つ足のカラダを持つ彼らにとって相当な負担なのである。
(具体的には腰に来る。ものごっつ来る。なので、とてもよろしくない)
 逆に言えば、相手に並々ならぬ好意を抱いているからこそ、わざわざ「変化の術」を学ぶ為の労力を厭わないとも言える。
 ちなみに、彼らが猫の姿のまま立ち上がり、人に混じる事はまず無い。一種の不文律のようなものだが、それは彼らにとっての美学でもある。
 人の社会で生きるからには、やはり人の姿で在らなければならない――他国の視点から見れば古臭いとも思えるであろう思想は、彼らもまた、伝統を重んじてきたるしにゃん王国の民である事を伺わせる。


 るしねこのこの情熱は、変化の術以外の能力に関しても同じ事が言える。
 彼らは気に入った人間を助ける為の努力を厭わない。パートナーとなった相手が最大限の力を発揮出来るように身体を鍛え、武器を揃え、あるいは様々な知識を蓄える。時にそれは、苦手とされる魔術の分野にも及ぶのである。
 極端な話、同じるしねこでも医者の横で共和国どころか帝國にしか生えない植物の種類効能まで全て諳んじる者がいるかと思えば、魔法使いの横で迅速、かつ的確に詠唱をサポートして効果を倍以上に引き出させる者がおり、弓兵の側で風や大気の状態を示して射程を最大に引き出す者が在る一方で、竜猫の中で自分の十数倍の体格を持つ獣を相手に一歩も引かない者もいる。
 全ては側に在る人間次第なのだ。
 そして、そもそもの猫の性質がそうであるように、その好意と情熱は大抵、特定の相手へと向けられるものである。


 彼らは本来の姿である猫の状態で相手を見極め、その上で相手となる人間に人の世界での名前を乞う。
 ここで相手から名前を与えられることで初めて猫ではなくるしねことなるのだ。
 遙か昔から、この人と猫の神聖な結び付きを担ってきたのが、森の中に置かれた猫の神殿である。彼らはまた、契約への立ち会いによってその事実を記録し、纏めてるしねこの実数を計上し、把握する役割をも担っている。
 古くより「猫神」と呼ばれるこの神殿の守り人たちが猫の言葉を理解出来るのは、この事実を考えれば当然の道理であると言えるだろう――どちらの言葉も分からなければ両方への仲介など出来る訳もない。
 自分の相方と認めた相手がいなくなった時には彼らもまた変化の術を解き、人に与えられた名前を捨てて、ただの猫に戻る――伝承に従って言うならば森の奥にある猫の神殿へと戻っていくのだ。

あるひのせっしょーとあいぼう


「あー……これ終わったらまた地獄行きだよう助けてママンー」
「ニャに机の上で尺取り虫ごっこしてるんだニャ? お茶零れるから止めるニャ」
「いや例によって件の如く仕事が終わりませんっていうか書類の山ってか壁がもうやってもやってもベルリンの鉄製カーテンの如く崩れませんボスケテむしろボクケテ(※ボクを助けての意味らしい)」

「べるりんって聞いたことない会社だニャ? ……フムン。まァ、オマエには兄弟ともども猫缶14日分の恩があるから、特別に手伝ってやらニャい事もニャいニャア。少し待つニャ」


(5分くらいで戻ってくる)

「終わったニャ」
「具体的に何してくれたのさ?」
(無言でドアを開いて完璧に片付いた部屋と完璧に片付いた書類を示す)
「…………こんだけやれたら僕いらなくない?」
「整理整頓しただけニャ。ちなみに判子は全く押してニャいので悪しからず」
「意味ねええええええええええええ?!」
「判子押すのは摂政の重要ニャ仕事ニャので仕方ないニャ。別に回せるヤツは届けてやるから、後は自分で頑張るがいいニャ」
「お、おおおおおのれるしねこ……!」

 とある日の執務室付き猫士と摂政の会話。こんなグダグダだがわりと仲はいいのであった。

捺印地獄の摂政の叫びをBGMにベランダでお昼寝タイム。


「ちなみにお礼はべるりんの新作カーテンとかでいいニャ」
「いや、企業名じゃないから」

後日、べるりんではないが新作のカーテンがプレゼントされたそうです。(3日で襤褸へ)