ショートストーリー・猫の見る保育園
我輩は猫である。名前はミーシャ。保育園と呼ばれる家についている。
まるでクマのような名前だと初めて知り合うものにはよく言われるが、保育園のみんなが「みいしゃん」と親しみを込めて呼んでくれるので、この名前が嫌いになったことはない。
保育園には、何人かの大人と、親に連れられた多くの子供が訪れる。だいたい決まった顔をしていて、親は子供をここに置いて外に出て行くと、置いていかれた子供の面倒を大人たちが終始見ている。そして子供たちは、決まった時間に親が迎えにきている。
我輩ら猫は、子供が有る程度ひとり立ちするまで、母猫は他人どころか父猫にも触らせないものなのに、不思議なものである。
朝、我輩がご飯を食べ終えて日向ぼっこをしていると、いつものように子供たちが連れられてきた。
「あー、みいしゃんだー」「おはよーみーしゃん」「おはよーございます!」
子供たちの半分くらいは、たいてい我輩に挨拶をしてくれる。我輩も目で挨拶を返す。
そうして、今日も騒がしい一日が始まるのだ。
子供たちがいる間の保育園は、騒がしい。
声を上げながら走り回る子供、積み木やぬいぐるみでしとやかに遊ぶ子供、砂場で山や穴を掘って楽しむ子供、ボールで遊ぶ子供…。
時には我輩と遊ぼうとする子供たちもいて、気が向いたときはそのリクエストに応えてやっている。
ねこじゃらしやリボンで遊んでくれることが殆どなのだが、時にはぬいぐるみのように乱暴に扱ったり、尻尾を強く握られてしてしまうこともある。
そのときは引っ掻いてしつけてやるのだ。相手には敬意を持って接するのがマナーだとな。
まあ、毎日引っ張られたり、踏まれたりしてはかなわないので、声を掛けられない限り、我輩はピアノや棚の上に乗って子供たちの様子を眺めている。
子供たちの騒ぐ声も、毎日聞いていれば子守唄のようなものだ。それを聞きながら我輩は転寝をする。
転寝に飽きると、我輩は保育園を見回る。見回ると、思わぬものに出会うものだ。
以前に保育園の裏で立ち小便をする子を見つけたときは、その子が我輩に気づくまでずっとその様子を見つづけていた。
二・三日でそのことに気づいたその子はとそそくさと立ち去り、ちゃんとトイレでするようになったのだ。
トイレのしつけは重要だ。縄張りを主張するにはこの子らはまだ早い。
そんな風に毎日が騒がしい保育園も、楽しみな時間がある。それはお遊戯の時間だ。
お遊戯の時間が始まると、子供たちは大人たちのところに集まり、歌や踊りの練習を始めるのだ。
このときばかりは、みんなが歌や踊りに熱中している。まだ拙い歌声ばかりだが、これを聴いて日向ぼっこをするのが我輩の毎日の楽しみである。
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夜、誰もいなくなったところで、こっそりと我輩は保育園を出た。
今日は平和な月夜、猫の集会の日である。
いつもの森の広場には、他の村の保育園に住んでいる猫が集まっていた。
『私のところのあの子が魔法の才能を見せたのよ、大人たちが慌てちゃってもう大変……』
『オレの欠けた耳が気になって引っ張ってくる奴がいるんだ、いい加減怒って噛んだほうがいいのかな……』
こんな他愛も無い会話ばかりだが、猫の集会なんてそんなものだ。
意見を交換して、時には人間に関する愚痴をいいあい、ゆったりとした時間を過ごす。
こんな毎日が、我輩の保育園の過ごし方なのだ。