るしにゃんの弓作り
Revived world NINJA
1.蘇る世界忍者
るしにゃん王国の忍者系職業のすたれっぷりは、共和国内を見ても類を見ないものだった。
そもそも、活躍の場がないのである。
破壊工作や侵入には向いているものの、森国人の弱点である肉体的弱さが目立つ結果となったのだ。
そのため進路を忍者系職業という希望者が年々減少するのは、世論調査によっても明白であった。
これ以上の資金投入は明らかに無駄である。そう結論付けられていた。
しかし、ここで一発逆転劇が起きることとなった。
この奇跡を起こしたのは、クレール率いるマジックアイテム捜索隊の一人であるChessである。
FEGにある洞窟探索、そこでゴロネコ藩国の要救助者を助け出すためChessが死力を尽くしたのであった。
彼の活躍により、ゴロネコ藩国の要救助者らは、救出できた。更に、冒険の目的まで達成したのだから驚きである。
近年とんと役に立っていない忍者が活躍してしまったのだから世論は一気に傾く。世界忍者の存続であった。
なんとか存続させる方向に傾いてはいたが、やはり主流の星見予算の都合でたいした予算は出ないとなる。
ここで、白羽の矢がたったのが、ちゃきであった。
「日頃、仕事してないんだから、それくらいやれ」と摂政の幽に言われたちゃきが、いやいや動き出す。
とはいえ一朝一夕で出来ることではなかった。
仕方ないので、仕事をほおって釣りをしていた。
愛用の竹竿を持って、いつもの波止場で釣りをしている、そんなときだった。
(…なんでオレに白羽の矢が…はっ!)
世界でもっとも単純な発想がこの瞬間ポップアップした!
そう、体格がなければ近づかなければいい。
るしにゃん王国には竹材産業があるということを思い出すと早速、弓の開発をちゃきは開始する。
しなりのある竹材を用いるだけでもそれなりのものが出来たが、やはりここは更なる開発を目指すのがロマン!とかいいつつはっぷん技術士との共同開発が始まる。
竹だけで一体どうするかというと、加工した上での複合化であった。
二層構造という形である程度の威力が出るようになるものの、納得がいかない。
とはいえ、これ以上別の材料を使うだけの予算もない。
そんな時、炭焼き小屋から帰る国民を見てちゃきは思い立ったように竹材を炭焼き小屋に持ち込むとそれらを炭化させ始めた。 そう。つまり、竹材から作れる強度のある物質グラファイトカーボンだった。
さっそく、それらを芯として開発した弓をもって意気揚々と神殿に持ち込んだちゃきにS43はこういった。
「あれ?ちゃきさん和弓つくったの?」
「え?そうなの?」
竹材をフル活用した結果、それは、和弓とほぼ同じ構造となっていたのであった。
自国での開発が容易となった新型コンポジットボウで旧来の世界忍者たちは、詠唱部隊くらいの活躍ができたらいいにゃーっとChessを中心に考えていたのであった。
古来、長弓は大きく分けて二つの系譜があり、片方が竹を材料とする和弓、日本的な弓であり、もう一方がウェールズのロングボゥである。 るしにゃん王国は竹を産出する竹林がある一方、青にして正義に縁のある楡の木も多く見られる。 そして、ロングボゥは杖の原料としても使用されるイチイか楡を原料とする弓である。
つまり、るしにゃん王国は二大長弓を生産、使用するのに適した環境を最初から有しており、ここにきて弓兵が登場するのは、最早、必然だったといっても過言ではない。
そこで、どうせならとロングボゥ系の弓の開発もはじまった。所謂エルフである森国人にとってはロングボゥのほうが馴染みが深めで扱いやすいだろうという理由もあったのだ。
こうしてちゃき・はっぷんを中心とする和弓開発チームとは別に、ロングボゥ系の弓も同時に開発されていたことで、弓兵の装備はバリエーションに富み、多くの状況下で活躍の舞台を得ることとなっていくのである。
3.るしにゃんあろー
弓には、対になる矢が必要である。
星見司が総出で作り出した2系統の弓には、それぞれ2種類の弾頭の矢が開発された。
うち1種類は忍者の系譜らしく白兵戦もこなすことも可能なよう、普通の矢の数倍の鏃がつけられている。
また異なる種類の弓でも使えるよう互換性をとり、さらに矢の軸は折れにくくするため素材そのものの強度だけでなく外力に強い中空構造の芯が採用することで力学的な強化がされている。
だが、この矢の仕様は本末転倒な結果を生む。
白兵戦のために数本の矢を1度に振り回すだけならまだしも、射撃戦を行うために数十本と矢筒に収め携帯した場合には忍者としての機動力を大きく阻害してしまうほどの重量が生じてしまうのだった。
この欠点を解消するために採用されたのが風の中心を探すものが学んだ浮かぶ鞄の技術である。
彼らが国に提出した浮かぶ鞄の原理とは魔法を用いた重力操作による鞄周囲の無重力化や斥力の発生であった。
一番重量のあるやじりを中心にそれをかけることで矢の重量を0とし、際限なく矢を持つことができるようにしたのだ。
これで完成かと思いきや、さらに問題が表出した。
重量が0では矢を射出した後、外れた矢は空気抵抗で減速して最後には一定の地点に浮遊し続けることになり、周囲に悪影響を及ぼすことに気づいたのだ。
それが上空に放ったものだったとしたら浮遊魔法が何の拍子に解除され地上を攻撃するか分かったものではないし、それ以前に重量が0のままでは重さから来る威力も見込めない。
運用が楽になった変わりに武器としての意味を消失した矢をどうするべきか。
今度は大魔法使い達が頭を抱えるはっぷんを助けた。
無重力化や斥力というのは、逆向きの重力です。斥力発生が問題なら、途中でベクトルを反転させましょう。
射撃するために必要? なら射るときに使うものに反転する仕組みをつけるといいのでは。
そう助言した彼らは、彼らの大魔法使いの由縁たる詠唱時間・発動範囲・能力の広範囲操作技術を用いて、弓に魔術改竄の術式を組み込んだ。
弓兵は詠唱戦ができないためその術式の発動に必要な魔力は矢から供給されることになったが、それがかえって幸いし、どのように射出しても最終的には必ず地面に落ちるようになった。
それに改竄後は引力の発生点を鏃の1cm先に設定され、弦に弾かれた矢は本来の加速に加え1cm先に「落ちる」引力がかかって速度が何倍にも上昇し、目標に刺されば速度が殺されてもただの矢にはない引力がその刃を内に食い込ませることが、出来るようになった。
また、弓と矢に魔術親和性を持たせるために竹を焼いたものを鏃の製法に組み込んだところ思わぬ副作用が出てきた。
河の鉄とは砂鉄。砂鉄のインゴットは純度の高い鉄、玉鋼である。
そして、そこに竹という炭素が加われば炭素と鉄の合金、鋼が出来る。
そしてこの製法で作られた鋼は、切り裂く刃物の代名詞である日本刀に大量に用いられるものであり、敵を貫くための薄い刃を作るのには非常に適していたのだった。
こうして、筋力のないるしにゃん王国の森国人でも充分に威力のある射撃攻撃が可能で、かつ長所である速度を犠牲にすることもない、真の次世代主力装備が完成した。
これはるしにゃん王国全員が一丸となって開発を支援した、その技術の結晶ともいえるだろう。
それゆえにこの矢の汎用性は高く、長弓が新たに作りなおされたときも安定した矢の飛びによって作り直す必要がなかったほどであった。
なお、この傑作品を下敷きとした開発は現在も進行しており、強弓と共に戦術の幅を広げる多様な矢のあり方の研究が進められている。