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るしにゃん王国の日常

Making of promotion posters

森の王宮ビフォー

がったーん。
派手な音を立てて、王宮の一つの扉が開く。

念願であった小笠原での、来須先輩との逢瀬。その思い出に深く深く浸っていた、地面にまで引きずる程の長く黒い髪を持った鷹臣は、その乱暴な音によって現実に引き戻される。

思いきり顔を顰めて、一体誰がこの桃色極まる思いを踏みにじったのかと、根源力1万以下では即死するのではないかという程の恨みを込めた目線を入り口に向けた。

其処にいたのは、一人の――少女風に若作りした、それはもう、その恨みの目線などものともしない、能天気な笑顔を浮かべたピンク髪の女性の姿。

「おみたんー。おみたんーっ。お願いがあるアルよー。」
「断る。っていうか、たん付けで呼ぶな!」

ずかずかと室内に踏み込んできたスゥ・アンコの笑顔混じりのお願いに、小笠原でゲットした先輩の写真を胸にしっかと抱きながらも、1秒もかからぬ即答で却下するものの、基本的にこの女、人の話を聞かない事で巷で有名。
こくこく、首を何度か縦に振った後に背中に隠してあった、つい先日、ちゃきが開発した和弓を、彼女の目前へと突き出す。

「じゃっじゃーん。今週のb…」
「メカじゃないじゃん!っていうかそのネタ危険?!」

ぼかっ。思いきり拳を頭へと向かって振り下ろせば、弓を持ったままに、スゥは床へと蹲った。
大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべ、潤んだ瞳で鷹臣を上目遣いで見あげた。別に媚びている訳ではなく。
むしろ媚びるような年齢は過ぎているという話であり。ついでにいえば、相手は少女。この手が通じる訳がない。

「うあーん。おみたんが酷いアルよ。っていうかこのネタわかるって事は年齢詐称疑惑アルよー。」
「煩い! っていうか話が全くズレてるし!早く話して出てってくれないと、私と先輩との思い出が穢れる!」

基本、先輩がらみになると途端に口が悪くなる鷹臣の言葉に全く怯みもせずに、より笑顔を深く、濃くすれば
「お話、聞いてくれるようで、ワタシ、とってもうれしいアル。
 これも王様の為、正義の為、国の為。…今、旬のおみたんなら完璧アルよ。
 ばっちりしっかり、宣伝道具に使われるヨロシv」

そう、無邪気に笑いながら―――、女が弓ともう一つ、取り出したものを見て、鷹臣は顔を青ざめるのであった。

「ぎゃあああああいやああああああああ!!!!」

城中に響き渡る少女の悲鳴に、城中の人々が何事かと、声のする方向へと駆けていく。
まず最初にたどり着いた人物――S43の視界に飛び込んできたのは、
その長く黒く、綺麗な黒い髪が無残にザンバラに切られた鷹臣の姿。マジ泣きしながらS43の胸の中に飛び込んでいく、というよりかは。
むしろその人物を盾にするような形を取りながら、額を身体に押し付けて、えぐえぐと泣いた。
「アンコがー…っ、アンコがー……っ。」
「ちょ、何、どうしたんですか。ちゃんと一から説明してください。」
取り乱した鷹臣は、S43の宥める言葉にもちっとも状況を説明しようとはせずに、短くなった髪のままに、ただひたすら怯えたように咽び泣く。
どうしたものかと途方にくれそうになった頃、廊下の向こう側から、スキップで――、ハサミと、弓と矢筒、そして――何故か水着を持ったアンコの姿が目に入った。
ああ…またか。そんな思いが苦労症のS43の胸によぎったとかよぎらなかったとかしたらしいが、兎に角、出来るだけ落ち着いて、妙な歌詞の歌を口ずさみながら近づくアンコへと口を開き。
「アンコさん。鷹臣さんが泣いてるんですが、何か知りませんか。」
「それ嬉し泣きアルよ。ほーら、おみたん、良い子だからこっちに来て、さっきの続き、やっちゃうアルよー。」

まるで猫でも掴まえるかのように、泣きじゃくる鷹臣の首根っこを引っつかみ、
あの、オーマネーム持ちのS43が、「そこまでだ!」で止める暇すら与えず、まるで風のように去っていくピンク髪を見つめて、国一番のおじさまは呆然と廊下に取り残されるのだった。

数日後。

森の王宮アフター

城の壁全てを埋め尽くすように、まるで真夏のビールのグラビアポスターのようなエロいノリで弓の宣伝ポスターが張り出されていた。

乳やら上目使いやら媚びれる要素を全て媚びた結果、あきらかに弓の方がオマケになった雰囲気が否めないのだが、そこらへんは目を引けばそれでよし、をモットーにしたアンコの作戦の結果である。

どうせ弓があるのだからと、天使風味にした結果、妙なコスプレ感が出て、よりカオスな雰囲気になった事にはまるで気づいていなかった。

まず、一番初めにそのポスターを見つけたのは、最近自室に篭りがちで、国の仕事よりはもっぱら自分の身体の管理で精一杯の王様だった。
「…………ッ!」
そして言葉もなく鼻血を出して倒れて、いつもの如く、名医にお世話になる事になった。

これだけ目立つポスターであれば、国民の皆が、様々な反応を示す。
そう、例にあげるならば―――

S43がこの国に戻ってきた事で、増殖したネコリスを、それはそれは幸せそうに追っているテルが、そのポスターに気づいた時には、思わずS43が植えた梅の木の木陰に隠れ、ネコリスと共に、
「おみさん……かわうい!」
そう気づけば呟いた。

羊…、じゃない、執事プレイに最近目覚めたらしい、ノーマ・リーは、執事というよりかはむしろ、コックの類に近い、パイの作成に情熱を注ぐ為、様々な果物を買いに行った、その帰りに見かけて
「や……やっちゃった……、やっちゃったよ……!」
ははははは、と虚ろな顔で笑った。…買った果物を、気づけば笑いながら落としていた。

「!これは…! ま、まぁ良い喧伝にはなりますね…」
真っ赤になりつつ、でも横目でチラ見しながら、それでも七海はしっかりとポスターを記憶に残した。
国自慢の技族であり、いつも、褒め称えられる七海の、その割にはかなりむっつりな駄目台詞を、相棒であるイセスは聞き逃さなかった。

特に本日は戦闘もなく、便利アイテムされる事もなく平和に国内の散歩を楽しんでいたS43は、そのポスターを見かけて固まった。
「いかん!藩王が!」
「るしふぁさんが、発情してしまう!」

そう叫んだかと思えば、しばき杖を握り締め、王室に向かうのだった。
――…既に、手遅れなのも知らずに。

国のアイドルその1が確定されているクレールは、その自覚なく、のんびりと今晩のご飯の内容を考えながらその場を通りかかった。
顔を赤くする事もなく、その肌の露出の多さに眉を寄せるわけでもなく、
「・・・そっか。鷹臣さんは来須を追いかけるために弓兵になったんですね。」
天然属性の恐ろしさを垣間見せる台詞を、のんびり、ほんわか、呟くのだった。

ポスターが張り出されてから、ほぼ半日。そろそろ辺りが夕暮れによって赤く染まる頃。
また、城の壁の前を通りかかった男が一人。武器開発において、国の右に出るものは存在しないと言われる、はっぷんである。――ポスターを眺め、…そして、
(……おみさん思ったよりあるな)
と、うっかり口に出そうとしたが背後から寒気を感じたので止めた、が。
この森国人の国で、そのような事は思っただけで既にアウトだ、という事を、はっぷんは忘れていた。
「はっぷんさん・・・」
ぽつり。何処から湧き出たように影から一人の黒髪の少女が現れて、薄く笑った。

(以下、残虐すぎる表現の為、お書きする事が出来ません。ご了承ください。)

――そして、城の壁もまた、夕暮れと同じ色に染まったのだった。


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「だって、地味極まる、うちの国アルよ?これぐらいインパクトある事しないと、その内、全国から忘れ去られちゃうアルよ。」
そう、犯人であるスゥ・アンコは、いつもの通り、にっこりと笑うのだが。

「たのしーたのしーじぇのさいど〜」

そう、…今回、一番の被害者である、国のアイドルに祭り上げられてしまった鷹臣は、薄く暗い笑みを浮かべ、奇妙なリズムの曲をトーンの低い音程で口ずさみながら、自室で、一人、刃を磨ぎ、来る日に備えている事は――まだ、この時は知らなかった。

余談、ではあるが。
……これに伴い、国の品位が、評価値−5 ぐらいになった気がするが、おそらくは気のせいである。


written by スゥ・アンコ
illustrated by S43(森の王宮ビフォー) and クレール(アフター) and はっぷん(じぇのさいど)